第2章 差し出せ
『…あぁ、やっぱりベッドが占領されてる』
予想通りといえば予想通りすぎて、大して落胆もしなかった。
大の字になって気持ちよさそうにベッドの枕元で寝ているグリムと、その隣で横になり、スヤスヤと眠っているエースを眺めて。
なんだか不思議と、ほっとした。
(…なんでだろう。この世界に知り合いができたからかな。現実世界では仕事が忙しくて、友達がいても、全く会ったりしなかったけど)
自分が誰かと繋がっている。
それだけのことが今となっては、とても幸福なことだと感じる。
エース自身はただからかい半分に声をかけてきた様子ではあったけれど、彼と関わって、デュースにも出会い、ひとまずは学園の生徒として安定した居場所を得ることができた。
(………私今日、全然仕事してないのに。ありがたい)
シャンデリアを割って、指示された窓拭きも終えられず。
それでも温かいベッドで雨風を凌げている。
お金の価値はまだわからないものの、10000マドルという学園長からの支援金が、1円や10円といった程度の額ではないことぐらいわかる。
『……。』
私は学園長から預かっていた古いカメラを手にとった。
そして、すやすやと寝息を立てているエースと、グリムの寝顔をフレームにおさめて。
パシャリと写真を撮った。
「…ん……ぁー、寝てた。…今写真撮ったろ」
『撮ってないよ』
「嘘つけ!はい1枚1500マドルねー」
無一文なので払えません、と断りを入れると、エースがベッドの上でコロコロと転がり、一人分のスペースを自分の脇に作ってから、ポムポムとベッドを軽く叩いた。
私はなんだか可笑しくなってしまって、彼に返事を返さず、クスクスと笑いながら背を向けて、カメラをテーブルの上に置いた。
「無視の上に嘲笑ですか。いーですよーだ、こうなったらもうベッドから退いてやんないもんね」
ゴロンゴロンとまたベッドの上を縦横無尽に転がるエース。
私は彼の身体が端に寄ったタイミングで、スペースが空いている側のベッドのふちに腰掛けた。
そしてエースに背を向けた体勢で、ベッドに横になった。
軋むベッドの音で背後の状況が分かったのか、エースは私に背を向けたまま、微動だにしなくなった。
軽口で誘ってきていたわりに意外と、そういったことに対して、彼は免疫がないらしい。