第2章 差し出せ
「あっ!こらエース!そのベッドはオレ様と子分のなんだゾ!」
「帰ってくるまで借りたっていーじゃん、朝まで寝ないって。ほら、お前はこの辺りで寝てればいいだろ」
「オレ様の特等席はそんな足元じゃなくて、子分の上なんだゾ!」
「枕元って事?」
「ちげーんだゾ。身体の上なんだゾ」
「マジで猫に足蹴にされてんじゃん…それに加えてこんなボロ屋で無一文の生活って…さすがに同情するわ」
バタン、と。
派手に彼女のベッドへ倒れ込む。
やっぱりと言ってはなんだけど、埃っぽいような煙が床から舞い上がってきた。
(…今日つっかれた…初日からトラブル続きだし、退学させられそうになるってなんなの?)
はぁ、と深くため息をつくと、微かに湿った彼女の枕から、石鹸の匂いがした。
(…無一文で、異世界ねぇ…)
グリムの声が遠く、聞こえなくなっていく。
何を言っているのか聞き取れない。
あー眠い、身体がだるい、もう限界待ってらんない。
ベッド、ちょっとだけ借りよ。
「……グリム、カオル帰ってきたら起こして……」
ナイトレイブンカレッジ1日目。
期待通り、色々と飽きない出来事が目白押しだった。
その分疲れるし、腹の立つこともあったけど。
ついでに首輪もはめられてるけど。
これからの学校生活が楽しみで仕方ない。
入学式で彼女を目にした時、直感でわかった。
男子校唯一の女子。
入学者達の中で、唯一、死人のように覇気がない表情をした彼女。
そのわりに、寮長達がグリムを捕まえる為に使った魔法の数々を目にした時。
彼女は初めて「魔法」を目にした子どものように、目を輝かせていた。
カオルはこの学校の中で異質で、不自然で、面白い。
だから今朝、早速彼女に声をかけた。
カオルと関われば、面白い毎日になるって予感がしたからだ。
女子はチヤホヤされるのが好きだから、それっぽい態度も所々滲ませて、オレに興味を持つように仕向けようと思った。
変な虫も出来るだけ寄せ付けたくない。
ここは男子校だから、せっかく友達になれたって、いずれ他に彼氏が出来る。
そしたら、そんなに一緒にはいられなくなると考えた。
けれど、今、思えば
(…ガキみてぇ。お気に入りのおもちゃが盗られたくないみたいな…)