第1章 蘇れ
「カオル〜っ!カオル〜!」
……豆狸が私を呼んでいる。
今は何時なんだろうか。
何時だろうと。
もう少し寝ていたい。
ツナ缶絡みの用件以外で、彼が私に声をかけてくることなんて想像が出来なくて。
つい、寝たフリをした。
「ふなぁ〜…!起きろって言ってるんだゾ!ゴーストが出たんだゾ〜!」
『…ゴーストね。ゴースト…はいはい』
「はいはいじゃなくて、とっとと起きるんだゾ!!」
オマエ、この状況に慣れるの早すぎなんだゾ!!!
と特徴的な語尾で人語を発しながら、豆狸がソファで横たわる私の身体に飛び乗ってきた。
『…豆狸殿、そこは拙者の胃の真上ですゆえ…降りていただきたく…』
「誰が豆狸だ!!オレ様にはグリムっていうカッコいい名前があるんだゾ!!」
『…グリ………グリム童話のグリムね…覚えたから、もう少し寝かせてくれないかな』
45連勤明けなんで。
そう告げても、文字通り火を吐くほど激怒しているらしい「グリム」と名乗った猫型モンスターは、どうしても近くで浮遊しているゴースト達が気になって仕方がないらしい。
「グリムドーワ?訳わかんねぇこと言ってないで、起きるんだゾ!起きねぇつもりなら、このオンボロ寮で唯一ホコリが舞わないそのソファ!!燃やしてやるんだゾ!!!」
『……舞ってたのをとりあえず取り除いたんだけどね。それと、グリムは見かけによらず賢いね。起きる、起きるよ』
きっと、グリムの脳みそは100g。
勝手に同居人のスペックを見積もっていた私の期待を裏切る形で、グリムはテキパキと私をソファから引き摺り下ろすと、肉球のついた右の前脚を掲げ、声を発した。
「ゴースト達!!オレ様の炎魔法で蹴散らしてやるんだゾ!!」
「「「おぉ〜コワイコワイ、仲良くしようぜ〜」」」
『そうだよ、仲良くしよう。根は良い人たちかもよ』
「オマエどっちの味方なんだゾ!!」
『とりあえず、静かに寝かせてくれればどちらでも』
良い、と私が言い終わるか終わらないかのタイミングで、仮住まいである「オンボロ寮」の玄関の扉が開け放たれた音を聞いた。
カツコツという靴音が近づいてくることに気づき、ゴースト達はクモの子を散らすように霧散していった。