第2章 差し出せ
「決めた、いーよ1500マドル。その代わりカオルのベッド貸してよ」
「ふなっ!オレ様の寝るスペースが狭くなるんだゾ!カオル、そんなはした金でエースと寝ることないんだゾ!」
『闇営業みたいに聞こえる言い方やめて。ベッドを貸すだけ、私はソファ』
「え、カオル付きベッドじゃないなら別にソファでいいし」
『えっ?1500マドルは?』
「やらない。埃だらけのオンボロ寮で1泊1500マドルは高すぎ」
しばしの間。
私とエースは真顔で見つめ合った。
『…まぁいいか、おやすみ』
「いいのかよ!あーもう、カオル!お前もっと他人に興味持った方がいいよ!」
『出会って数日で何を仰るのやら。超〜気にかけてるよ』
「嘘くせー。っつーか、お前髪濡らしたまま寝てたの?どんだけ女子力欠如してるわけ?」
『……ドライヤーがないから仕方ないんです』
「ドライヤー?そんなの風魔法で…あー…なるほど」
そこまで言って、エースは、私が魔法を使えないことと、今日の解散間際、私が学園長から生活費として1万マドルを受け取っていた場面を思い出したらしい。
「……タイミング悪。オレも首輪のせいで今魔法使えねーし。どうすっかな…グリムはまだ炎魔法しか使えないんだろうし。あ、校舎の男子ロッカー、もといシャワールーム使えば?ハンドドライヤーあったはず」
『えっ。3分10マドルとか取られる?』
「共用だけど金はかかんないと思うよ。まさか初日で1万マドル使い切ったわけ?」
『………身の回りのもの揃えたら、ちょうど』
「まぁそもそも1万でアレもコレも揃えろって方がムリな気がするけど。学園長意外とセコいのな。…この時間じゃ誰も居ないだろうし、行ってくれば?」
大人しく、お留守番しててやるよ。
そう言って、ニッコーとした満面の笑みで送り出してくれたエースの表情に違和感を覚えつつ、私はしっとりとしたままの自分の髪を一つに束ね、夜の校舎へと向かった。
(…ドワーフ鉱山で変なもの見たせいか、やけに暗く感じる)
ゆらゆらと頭上に浮遊しているランプたちは、深夜だからなのか、昼間の明るさよりだいぶ控えめに光っている。
淡い光に照らされて中庭を横切り。
あと少し。
『いたっ』
「…おや」
目的に辿り着く手前の階段を駆け上がり、踊り場で何かにぶつかった。