第2章 差し出せ
「タルト食った」
『…タルト?…それだけ?』
エース曰く。
深夜にタルトを盗み食いして寮長に首輪をはめられた、という。
「そうなんだよ!盗み食いしたくらいであり得なくね!?」
かろうじてホコリが舞わないソファの上。
とりあえず話を聞いて!とやけに押しが強いエースに負けて、二人と一匹で深夜の密会を開催することとなった。
酷すぎ、大人気なさすぎと騒ぐエースの話を、眠そうな顔をしたグリムと一緒に、眠い目を擦ってしばし聞いていたものの。
時刻は丑三つ時。
さすがに眠い。
『…まず謝ったの?』
「うっ。…オレ、カオルなら絶対に寮長が横暴だって言ってくれると思ってたんだけどぉ?ハイハイそーですか、帰る場所がないオレなんかの話より、自分の睡眠欲の方が大事ですよねー!」
『帰る場所はあるでしょう。私は明日バイトが入ったから、今日はたくさん寝ないと』
「バイト?なんの?」
『カフェの』
明日、謝りに行こう。
そう提案して、ゆらりとソファから立ち上がった私を視界に捉え、グリムが肩に飛び乗ってきた。
「観念して謝るんだゾ。食べ物の恨みは恐ろしいんだゾ」
「はぁ…わかったよ。謝ればいいんでしょ。……カオルが提案したんだから、一緒に来いよな」
『わかったよ』
さて、と。
わかりやすく私は声を発して、談話室の扉を開けた。
エースが重い腰をあげるのを待っていると、エースはそのまま、決して綺麗とは言い難いソファにゴロンと横になり、意思表示をしてみせた。
「じゃ、とりあえず今日どこで寝ればいい?」
「オメー、本当に泊まる気か。オレ様とカオルの部屋以外、まだどの部屋も埃だらけなんだゾ」
グリムが「寝床が欲しけりゃ働きな!」と、童話に出てくるイジワルな継母のような事を言う。
「カオル〜部屋に泊めてよ、オレ、スマートだから幅取らないしさ。ねっ」
『……宿泊料次第で考えなくもないかな』
「げっ、金とんのかよ!オレとお前の仲じゃん!」
『シャンデリア割った仲?窓拭きを押しつけられた仲?』
「根に持ってるし…ちなみにいくら?」
『1500マドル』
「みょーに具体的ー…ちょっと奮発したランチ代くらい…」
悩むエースを眺めながら、私はしっかりと、「1500マドルはちょっと奮発したランチ代くらい」という金銭知識を蓄えた。