第2章 差し出せ
自分の身体が、高校生の時に戻っている。
まだ幼さが残るその顔を、鏡越しにじっと見つめている私に向かって、グリムが怪訝そうに声をかけてきた。
「なぁカオル、まだ寝ないのか?」
『……………寝る。ねぇグリム、私って何歳に見える?』
「オマエの年齢なんてどうだっていいんだゾ」
豆狸に一蹴された私は、なんとも言えない心持ちで、制服姿のまま自室へ戻り、ベッドに横になった。
髪はびしょ濡れだけど、ドライヤーがないから自然乾燥するしかなさそうだ。
(……若返ってる。いよいよもって訳がわからない。…高校に召喚されたから、高校生になって出てきたの?さすがに混乱してきた)
うーん、うーん、と。
なぜかわざわざ、横になった私の胸の上で丸まって眠っているグリムの重さと、懸案事項に頭を悩ませながら、眠りについた。
そこから、1時間も経たない間に。
私とグリムは、オンボロ寮の正面扉を激しく叩く音で、文字通り叩き起こされた。
「…なんだぁ…こんな夜中に」
『…はーい。どちらさま?』
現実社会でこの時間に訪ねてくる人がいたとするなら。
私なら絶対に玄関には出ない。
むしろ扉にチェーンがかかっているか確認する。
けど、喋る猫が側にいてくれることが心強いからだろうか?
私は特に躊躇なく、オンボロ寮の玄関を開けた。
「オレ、エース。…ちょっと中に入れてよ」
「エース?…こんな夜中どうし……ふなっ!?」
開いた扉から現れたエースの「首輪」を見て、グリムが何かを思い出したのか、私の肩に飛び乗り、しがみついてきた。
ハートの形の鍵を首にすっぽりとはめられたエースは、見たことがない膨れっ面をしたまま、私に直談判をしてきた。
「もうハーツラビュルには戻んねぇ!オレ、今日からここの寮生になる!!」
『えっ』
(…それは、男手が増えるな。ありがたいや)
と、思うのと同時に。
私は「高校生とはいえ一応、歳下男子」と共同生活を始めた日々の窮屈さを想像し、首を横に振った。
『……ごめん、風呂上り下着姿でうろつきたいから断る』
「どんな理由だよ!?寮内をなんつー格好でうろついてんの!?」
女子しっかり!と励ましてくるエースの言葉を聞き、私はやはり、みんなにも「そう」見えているんだと確信した。