第1章 蘇れ
「僕のように親切な人間に出会えて、あなたはラッキーだ」
『…え?』
「日払いの働き口が必要でしょう?」
うちで働きませんか、と。
アズールは私に提案した。
『えーっと…ご親切にありがとう、ちなみに「モストロ・ラウンジ」ってどんなカフェなのかな』
「上品に歓談を楽しむ紳士の社交場ですよ。恐らくあなたは…下品な店ではないかとお思いでしょうが、心配はご無用。仮にそんなバカが現れたとするなら、すぐさま締めあげて出入り禁止とします」
『バカ…それは、とてもありがたい話かもしれないのですが…私、こっちのマナーとかまだよく知らなくて。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、大丈夫ですか?』
「おや、村の出身ですか?言葉遣いも、マナーについても問題ありません。今日、あなたが食堂を歩く立ち姿を見て、業務上全く問題ないと判断しましたから」
『え』
全てにおいて、あなたが考えつくようなクマノミサイズの心配はご無用。
アズールはちょっと引っかかる勧誘の言葉を発した後、私が口を開こうとしたのを見計って、言葉を被せてきた。
『給りょ「明日の放課後から22時までの5時間労働で5000マドル」やります』
「即決していただきありがとうございます。では、明日の16時30分に、その制服姿でオクタヴィネル寮までお越しください』
ちなみに、ご夕食は賄い料理が出ますから、ぜひご賞味くださいね。
アズールはにこやかな笑みを浮かべたまま、軽く会釈をして、鏡舎の中へ入っていった。
(…5000マドルというピッタリすぎる金額設定に飛びついてしまった…けど)
アズールは言っていた。
「その制服姿で」お越しください、と。
(これ、明日の放課後から22時までの5時間を、男子高校生達にバカにされ続けるバイトじゃないのかな。デザインもわからないTシャツを3枚買うためだけに5時間も笑われ続けなきゃいけないのかな…!?)
私、ちゃんと5時間も働けるんだろうか。
賄いはきっと、どんな味であれ喉を通らないに違いない。
絶望を顔に滲ませながら、ふらつく足取りで何とか大食堂へとたどり着くと。
ガッシャーーーーン!!
という派手な音とともに。
私は、フロアの天井に設置されていたはずのシャンデリアと、そしてなぜか空を飛んでいたらしいグリムとエースが、地面に落下した姿を目撃した。