第1章 蘇れ
「僕はデュース、デュース・スペード。クラスメイトの顔くらい覚えたらどうだ?……えーと…」
「お前も覚えてねーじゃん」
「と、とにかく!」
学園長命令なら、真面目に取り組め!と、いかにも真面目な生徒らしい出で立ちをしている彼は、至極真っ当な事を言ってくれた。
『…あれ?』
「やけに毛玉が静かだな…?」
目を離すとすぐこれだ。
嫌な予感がした私は鏡舎の外まで出て、辺りを見渡した。
『グリム、どこいくの?』
「にゃははは!オレ様の代わりに、せいぜい二人で頑張るんだゾ〜!」
(……ん?二人で?)
まるで捨て台詞のような言葉を吐いて、脱兎の如きスピードでグリムが鏡舎から逃げていく。
…いや、訂正。
捨て台詞を吐き、グリムは私とエースから逃げていった。
理由はおそらく。
「アイツ!オレを身代わりにしやがった!おい待てコラ!」
『…君らね、一番被害被ってるのは私なんだから、大人しくとっとと働きなよ』
「二人だけで窓拭き100枚なんてぜってーやだ!シンドすぎ、おい、えーっと…ジュース?だっけ。お前もあの毛玉捕まえんの手伝え!」
「ジュースじゃない、デュースだ!でゅっ!…なんで俺が…」
「おまえは魔法使えないから論外!先食堂行ってろ」
行くぞジュース!というひどいエースの掛け声につられて、文句をいいながら、デュースも並んで駆け出した。
一人、鏡舎の入り口に取り残された私は。
本日何度目かわからないため息をつく。
「失礼。少しお時間よろしいでしょうか?」
『…え?』
突如、知らない声に背後から話しかけられ、私はその場で身体を180°回転させた。
私に声をかけてきたのは、賢そうな顔つきをした、一人の眼鏡男子だった。
彼は値踏みするかのように、真顔で私の姿を上から下まで一度眺めた後、ニッコリと。
慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「食堂で小耳に挟んだのですが、あなたは今何やら、生活用品も買えないほど金銭的にお困りのようですね」
『小耳に挟んでほしくない話ですけど…えーっと…ラギーくんの友達かな』
「申し遅れました、僕はアズール・アーシェングロット。オクタヴィネル寮の寮長兼、カフェ「モストロ・ラウンジ」の支配人を務めております」