第1章 蘇れ
ーーーじゃあ寮Tシャツが3枚で5000マドルはどうッスか?買う気になったら2年B組の教室か、サバナクロー寮に来てくださいッス。超〜お買い得ッスよ。
私は、ラギーと名乗った青年の売り文句と、彼の特徴的な可愛らしい獣耳を思い出しながら、購買の値段札をじっと険しい顔で眺めていた。
「H EーY小鬼ちゃん!欲しいものが見当たらない?」
『…いや…見つかりは、したんですけど…』
購買部の店主が、白無地Tシャツの値段札を眺めたまま、石化していた私に声をかけてくれた。
『…このTシャツ、3500マドル?』
「そう、そのTシャツはどんな魔法薬がかかっても洗えばすぐ元通り!涙が混じったタコ墨だってたちまち落ちる上質素材だよ」
衣類の相場はまだわからないものの、ラギーの申し出を先に聞いてしまったからか、今となっては3500マドルという店のTシャツの値段が、高額に思えて仕方ない。
上質じゃなくていいから、もっと手が出せそうな値段にして欲しい。
(…もっとも私は雇い主のご機嫌を損ねるのが面倒で、今日働いた賃金がいくら貰えるのか、いつ貰えるのかすら未だ確認できずにいる軟弱者だから…とりあえずそっちを確認しろって話なんだけど)
『…お金持ってまた来ます』
「OK!OK!またのお越しを」
(…お金、といえば…職場どうなってるんだろう。無断欠勤って、クビは確実だよなぁ……)
私は現実世界で勤めていた職場のことを不安に思いながら。
グリムと共に、午後の労働へと向かっていった。
メインストリートの掃除を終えて、放課後。
大食堂で、一枚一枚壁に嵌め込まれた窓ガラスを雑巾で拭いていく。
しかし、16時になり、17時になっても。
同じく「窓ガラス100枚拭きの刑」に処されたはずのエースが現れなかった。
「こーーらーー!」
「げっ、見つかった!」
「1人だけズルいんだゾ〜!オレ様だって、サボりたいんだゾ!」
教室を探し空振って、寮への帰路である鏡舎の中で、とっとと帰ろうと急いでいるエースの姿を見つけた。
彼の足に飛びつこうとするグリムと、逃げ足の速いエースの追いかけっこが始まった直後。
私はエースが逃亡しようとする進行方向に、一人の真面目そうな男子生徒が佇んでいることに気がついた。