第1章 蘇れ
一体どこで働いているのかは知らないが、なんにせよ、給料日も確認せずに働き始めるなんて世間知らずにも程がある。
(どんな子かと思ったら…バイトしたこともないお嬢様かよ)
間近で観察したところ、気品溢れるとは言わないが、彼女の所作には品がある。
大雑把な男子生徒たちが荒々しく食事にありついているこの食堂では、その大人の女性のような物腰は一際強調され、すれ違う男子たちの視線を一瞬で奪ってしまうほど艶やかだ。
(…けど、箱入りお嬢ちゃんだとするなら、「洋服代を稼ぐ」とか、「なんでもいいから服が欲しい」とか言ってることが合ってないんスよね。なんでか知らないけど所持金ゼロらしいし)
今、全校生徒の中で一番取り沙汰されている「彼女」と狸を見かけた好奇心から、敢えてまだ食事中だった彼女に席を譲ってと声をかけたのだが、謎は深まり、ますます興味は湧くばかり。
しかし、顔には絶対出さない。
なぜなら今自分は、稼ぎ時に直面しているから。
「…ハァーア。そんな粘られたって、無一文じゃどうしようもないッスよ。タダより高いものはないって言うでしょ。せめて値切れる程度のマドルは持ってきてくださいよ。誰かにとりあえず借りるとか」
『……友達、こっちにはいないし、借りるっていっても…今怒られてるし』
「あー、新入生じゃなくてただのバイトさんだった」
(知り合いいないし、世間知らずなら…高く売れるかも)
オレは、持ち得る限りの悪知恵を働かせた。
「…まぁ話を聞いたのも何かの縁ッス。寮の大掃除がある明後日までは、捨てずに注文受け付けるッスよ」
『え、売ってくれるの?えーと、いくら?』
「そうッスねぇ…サムさんの店で買える衣類の値段を考えると…一枚2500マドルでどうッスか?」
『購買の値段を確認してからでもいい?』
「どーぞどーぞ。確か白無地のが3000マドルくらいだったと思うんで。確認した方が、うちのがお安いって思うだろうし。ちなみに何枚欲しいんスか?」
『……3ま…いや、5…枚?』
「うら若き女子高生が、映えない寮Tシャツで一週間ローテしていいんスか」
『好きでこの服着てるわけじゃないんだから、煽らないでよ…』
お姉さん、年甲斐もなく泣いちゃうよ。
そう言う彼女の言葉選びが可笑しくて、笑ってしまった。
「シシシッ…「お姉さん」って、変なの」