第1章 蘇れ
『ふふ、大変よくできました』
私はつい、グリムの頭を不用意に撫でてしまった。
あ、まずい噛みつかれるかも、という私の予想とは反して、グリムは猫らしく、喉をグルグルと鳴らして満更でもなさそうな笑みを浮かべた。
『…さぁ、午後は「洋服代」を稼ごう』
「オレ様は服なんて欲しくないんだゾ」
『学園の制服は欲しいでしょ?』
「うぬぬ……欲しい…」
『じゃあ、きちんと掃除しよう。私は古着でも何でもいいから、寝る時に着るものが欲しい。…そもそも、この世界の「衣類の価値」ってどの程度のものなんだろう。1000円で大きめのTシャツ買えたりするかな』
(料理についてた値段札、「マドル」って書いてあったよな。言葉もみんな通じるし、文字も読めるけど、お金の単位は違うみたい)
安い価格帯の店があればいいけど。
そう呟き、歩き出そうとした時。
テーブルに肘をついて、こちらを眺めていた彼がまた声を発した。
「君、服買いたいんスか?この学園に店は一つだけッスよ。何でもいいなら、うちの寮の寮T、今年新しくした関係で古いモデルの大量に余ってるんで買ってくんないッスか?サムさんのとこより安くするッスよ」
『え。……いくらで、でしょうか』
「そうッスねぇ…1枚10000マドルでどうッスか?」
『きっと高い』
「シシシッ…きっとっていうか、かなり高いお値段ッスよ。冗談はさておき、なにやら懐が寂しいみたいッスけど…いくらなら買えそうな所持金なんスか?」
グリムも私も、閉口する。
商売を持ちかけてきた彼は満面の笑みで固まったまま、その一瞬の沈黙の意味を悟ったらしい。
「やっぱこの話ナシで」
『まって、助けて。服余ってるんでしょう?』
立ち去ろうとしていた私はもう一度、彼の隣に腰掛けた。
しかし既に、彼は商売用の笑みを消し去っており、「金の切れ目が縁の切れ目」と言いたげな視線をこちらへ向けてくる。
コロコロ変わる表情に面食らいながら、私は話しかけ続けた。
『正直な話、今は無一文だけど明日には少し豊かになってるかも』
「明日バイト代入るってこと?」
『いや、それはわからないけど』
「なんスかそのフワッとした希望的観測は。どんなブラックバイトしてんの…そういうのは、働き始める前に確認しとくもんッスよ」