第3章 DAY 2
空却くん家から一番近いコンビニで温かい飲み物とほかほかに蒸された肉まんを買い、ドライブすること二十分弱。
辿り着いた目的地は誰もいない公園。
駐車場に止まった車。
ぱちりと車内に灯りを灯した獄さんはシートベルトを外すとはあとため息を吐く。
「ここは?」
「昔息抜きに来てた公園。司法試験の勉強の合間に、な。」
ラジオはいつのまにか音楽からお寺の鐘の音が鳴り響いている。
年越しはもうすぐだ。
「なずな。」
呼ばれた方を向けば柔らかな顔で私に笑みを向ける獄さん。
何、なんてぶっきらぼうに答えれば獄さんのあったかくて大きい手が私の頭を撫でた。
「タイミングが合わなくてちゃんと言えてなかったが…専門学校合格おめでとう。」
十二月、師が走り回るほどに忙しい時期。
"弁護士先生"と呼ばれる獄さんも中々に忙しかったようで、ここ数週間事務所に寄ってもメッセージアプリで帰宅を促される事ばかり。
数日前にした吉報もああそうかで流されていたから、こんな風に言ってもらえるなんてと嬉しくなる。
「ありがとう、ございます。」
お礼を言いながら俯く。
改めてお祝いを言われるのは嬉しさもあるけれどなんとなく恥ずかしい。
赤くなった顔を隠すように巻きっぱなしだった獄さんのマフラーに顔を埋めるとそれを見た獄さんが笑う。
「合格祝い、何がいい。」
合格祝い。欲しいものはたくさんある。
でも、やっぱりわたしは…
「ひとやさん…」
名前を呼べばぱちりと目があう。
その目を合わせてもう一度欲しいものの名前を呼んだ。
「ひとやさんが、欲しい。」
キョトンとなったその顔は、一瞬だけ朱が差してふいと向こうを見てしまう。
「それは無理だな。」
再び頭の上に置かれた手が私の頭を無遠慮に撫で小さく笑う。
「こう言う時はブランド物とか高いもん買わせんのが良い女だよ。」