第3章 DAY 2
今年もあと二時間。
迎えにきてくれた獄さんの車に乗り込めば後ろの席から私を呼ぶ声。
ふわふわ、ボアのビッグ・シルエットパーカー。
細身のダメージジーンズの十四くん。
夜に溶け込みそうな黒にメッシュの金とピアスの銀が輝く。
「こんばんはっす。」
「こんばんは、十四くん。」
「ほら、シートベルト締めろよ。」
行くぞ、獄さんがそう言うと車が発進する。
ラジオから流れるのは先ほどテレビで見ていた歌番組。
流行りの歌が流れるのを耳にしながら景色が流れていくのを見ていれば、獄さんが私に問う。
「なずな、首元。」
問う言葉はわかるが意味がわからない。
なに、そう問えば獄さんはタートルネックで隠れた自分の首元をとんとんと叩く。
「お前寒くねえの。」
ああ、空いた首元のことを言っているのだろう。
わざとらしく獄さんの方に体を向けるとにこりと笑う。
「可愛いでしょ?」
デコルテが見えるようにとわざと大きめのVネックのトップス。
スカートは一目惚れした空却くんの髪の色みたいな紅色のシフォンスカート。
いつものブーツとリュックサック。
あとは通学時にも着ているAラインのコートで防寒をした。
目元と唇にほんのり色を乗せた笑顔を獄さんは一瞥し前を向く。
「首元冷やすと風邪ひくぞ。」
つきん、と突き刺さる言葉。
また子供扱いかと前を向けば隣から手渡されるふわふわ。
「俺ので悪いけれど使え。風邪引かれたら困る。」
獄さんの髪の色のようなマフラー。
お礼を言って首に巻けばふわり、と獄さんの香り。
ふふっと笑えば後ろから小さな声。
「よかったっすね、それ。」
後ろを振り向いてこくりと頷けば「なずな、危ねえから前向いてろ」と叱責を受けてしまう。
大人しく前を向き景色を景色を眺めるけれど首元の温かさで窓に映る自分の口元が笑っているのを見て慌てて口元を隠したのだった。