第7章 Telephone XXX
携帯でご主人様に呼び出されたかと思えば、地下室に彼の姿はなかった。代わりにカウンター席に1枚の紙が置いてあった。
『仕事でしばらく不在にします』
首輪は机の上に置かれていて、付けられることなく放置されている。
私はホッとして、がらんと空虚な空間を眺めた。ご主人様が居ないなら、私は帰って体を休めることが出来る。
――でも、何故だろう。寂しい、という気持ちがこみ上げてきて自分でも困惑する。整えられたベッドを見れば、散々弄ばれたことを思い出す。
奥の扉を見れば、お風呂場でセックスしたことや、お仕置きで手錠を繋がれて痛めつけられたことを思い出す。
私の日常に入り込んだ、非日常。それが当たり前になっていて、私はどうすれば良いのか分からなくなっていた。家に帰って休みたいはずなのに、部屋の中をもう少し見ていたいという気分に駆られる。
ご主人様はことあるごとに私を愛していると言った。でもそれは愛情ではなく、劣情。
だから今でも私は、彼のことを愛しているとは思えない。それなのに、ご主人様の体温がないことが、寂しいと思ってしまうのは、とうとう心まで調教されてしまったのだろうか。
「はあ、おかしい。寂しいなんて、どうかしてる」
でも何かに誘われるようにベッドへ歩いて行き、腰を下ろす。背中をシーツへ預けると、いつもの匂いが鼻をかすめた。少しの煙草のにおいと、洗濯された柔軟剤の匂い。ご主人様は綺麗好きで、行為が終わるときちんと洗濯に回してクリーニングをする。
目を閉じると、体を弄ばれ、何度も欲を中で受け止めたことを思い出す。それだけで、体の奥が疼いた。こんなところで、ご主人様に何もされていないのに、私は疼きを解消したい、と思った。
「んっ……」
下着の中にそっと指を入れ、自分が気持ち良いところを擦ると、たちまち体中が熱くなってきて、愛液が溢れてくる感じがした。いけないことをしていると分かっているのに、止めることが出来ない。誰も見てないのだから、少しだけ。