第7章 Telephone XXX
首輪を付けていないのだから、従わなくても良い。断って逃げ出しても良い。でも、私は、名前を呼びたくなった。ご主人様、ではなくて、――下の名前で。
「……銃兎、さん」
銃兎さんの眼鏡の奥の瞳が、僅かに緩んだ。
「首輪がなくたって、たっぷり可愛がってやる。言っただろ、俺はお前を愛してる、って」
見つめ合っているだけなのに、濡れてくる。最初は体だけだった。劣情を向けられて、苦痛で堪らなくて、この場から逃げ出したくて、警察官を辞めて逃げ出してしまおうかと思った。
でも、口付けをされて、愛を囁かれて、何度も激しく求められて、飴と鞭で支配されていって――おかしい、と思う。私はこの人を愛していない。そう思う。
でも、触れたい。銃兎さんに触れられたい。めちゃくちゃにされたい。
「あの時撮った写真も、いやらしくよがるビデオも、何もかも俺だけが見る。外にはばらまかない。……約束する」
そう言って、じりじりと周りを固めていって、私が逃げられないようにする。
この人はなんて狡猾な人だろう。
「もうお前を、ペットとして扱わない。俺の可愛い恋人として、俺のものになってくれ」
頬を撫でられ、もう一度深い口付けをされる。
――私はその日から、ペットであることをやめた。