第3章 <2>首輪のついたペット
重苦しい気分で署を出て、指定された場所へと向かう。仕事柄、いろんな現場を見てきたけれど、何よりも今日が一番緊張する。
ビルは路地裏にひっそりと建っている雑居ビルで、地下へ続く階段は薄暗い。一歩一歩降りていく度に、私が履いている低いヒールの音が反響して響く。
たどり着いた茶色の重厚そうな扉には、何の看板も札も掛かっていない。何が起こるか分からない不気味さに吐き気がこみ上げ、両手で口許を押さえながら、体で扉に体重をかけた。
ギィ、と扉を開けると、そこは意外にも綺麗に整った空間が広がっていた。
全面グレーのコンクリート壁にはいくつかのダーツボードがかかっており、他にはワインレッドで統一されたベッド、黒いソファと壁掛けのテレビが1つずつ配置されている。
棚に並んだお酒のボトルと、数席のカウンターも備え付けられバーのようなスペースもあり、部屋の奥には別の扉も見えた。
一歩中へ踏み出し、扉が閉まる音がすると、背中にぴたりとくっつくように誰かが立った。
「動くな。後ろに手を回すんだ」
入間先輩の声だ。私はその場で立ち止まり、息を飲む。鞄を置き、言われたとおりに手を後ろに回すと、カチャリ、と手錠がかけられる音がした。
「19時ぴったりだ。あなたは、警察官の鏡ですね」