第3章 彼は子作りがしたいらしい。
「何もなくて良かったじゃない。むしろ、あったら困るよ」
「いや、そもそも俺の精子に何か問題があるんじゃないかと思ってさ。仕事が忙しいせいで、ストレスも多いし睡眠時間も短いし、食べ物も結構適当だし、そういうのは精子の質に関わるとか何とか書いてあって、俺全部当てはまってるなあって思って……」
ぶつぶつ言いながら、遠い目をしはじめたので、独歩のおでこをペシッと叩いた。
「それは別に今考えるコトじゃないでしょ。男性側に問題があるとは限らないし」
「いや、きっと俺に問題があると思う。だから俺、の家に来るまで色々試してみたんだ。亜鉛とか牡蠣とかすっぽんとか、精力増強剤とか」
「だからなんでそれを今試すのよ。結婚してからで良いじゃない」
膝枕していたはずの独歩はガバッと起き上がり、私をぎゅっと抱き寄せた。
「俺、お前と結婚したい」
「えっ、ええ?」
あまりに唐突なプロポーズに、うろたえた。もちろん嬉しいけど、なんて言うかもっとムードがあるような場所でされるものだと漠然と思っていたから。
「それで、子作りしたいんだ」
抱き締められたかと思うと、そのままカーペットの床に押し倒される。独歩のエメラルドグリーンの瞳が揺れて、私を欲しそうに見下ろしている。
「あ、あの。色々突然過ぎて、心の準備が出来てないんだけど……」
プロポーズの後に挨拶も結婚式も何もかもすっ飛ばして子作りなんて、思考回路がぶっ飛んでいる。もはや、疲れすぎて頭が回ってないのかもしれない。