第11章 出会い
「そうですか、なら、
ここで殺されるか、僕と付き合うか、どっちがいいですか?」
気がつけば俺はそんな事を彼女に伝えていた。
名前も知らない彼女を自分の恋人にしようなんて馬鹿げている。警戒心を人一倍に抱いていた俺が初めて会った彼女を傍に置こうとしている。
でも、これでさよなら、とはなりたくない
目の前の彼女はポカンとして俺を見ている。
そりゃそうだよな。
「理解出来てないようですね」
「はい、全然分かりません」
「本来なら僕はあなたを殺さなければいけません。会話も聞かれて、恐らく遺体も見ている。1番は僕の顔を見てしまっていることですね。」
「ならここで殺せばいいじゃない」
彼女は俺の目を見てはっきりとそう告げた。
何が彼女をそう思わせているんだ。
生きることを諦めているのか。
なら、それは絶対にさせてはいけない。
俺は彼女に監視として仮の恋人になってくれと言った。本当は逆だった。彼女を自分の近くに置きたいがために監視を理由にそう言った。
このまま彼女を1人にさせたらどこかに消えてしまうような気がした。
「どうして殺さないの」
彼女は聞いた。
確かに俺は今ここで引き金を引いたら事情を話せば後から来る下っ端が彼女の遺体も破棄するだろう。その方が俺にとって今後のリスクが少ないのは確かだ。彼女が本当に誰にも口外しないという保証はないのだから。
でも殺せるはずがなかった。
俺はこの短時間で彼女に好意を抱いてしまった。
死んでほしくなんてなかった。
目の前で彼女が消えてしまうなんて、そんなことは…
女になんて今後惹かれることもその余裕もないと思っていた。
だが彼女を見た時、俺の何かがパチンッと弾けた。
今はそんなこと彼女に伝えられないが…
彼女の俺に対する印象は最悪だろう。
なんせ人殺しだ。
さらに半ば強制に関係を作ろうとしているのだ。
それでも欲しかったのだ、彼女が。
彼女はどこか決心したように
分かりました、あなたの都合のいいようにして下さい
と言った。
そろそろ遺体を回収しにくる頃だ。
俺は彼女の手を引いて自分の車へ乗らせた。
その時掴んだ彼女の腕は細くて弱々しくて、このまま繋ぎ止めていないとどこか遠くに行ってしまうような気がした。
彼女は俺に腕を掴まれている間は何も発さずにただ自分の後ろを着いてきた。