第11章 出会い
ふと目の前に気配を感じた。
しまった、聞かれたのか
俺は咄嗟に相手を見た。
目の前にはスーツ姿で俺の方を驚いたように見ている女がいた。
月の光が彼女の顔を照らした。
一目惚れだった
透き通るような白い肌に大きい瞳。
その瞳が俺の目を見て揺れた。
彼女は殺してはいけない
咄嗟にそう思った。
しかし自分の会話を恐らく聞かれている。
もしかしたらここで大きな声で叫ばれ、逃げ出すかもしれない。それは俺の身体も彼女の身体も危険に晒される。
もし組織のやつに見つかったら…
俺は彼女の額に拳銃を当てた。
「もしかして、今の聞いてました?」
拳銃を目の前に彼女が逃げ出すことはないだろう。
案の定目の前の彼女は大人しくして、叫ぶことも逃げ出す気配もない。
すまない…
彼女の額に拳銃を突きつけた自分に嫌悪感を感じた。
ふと彼女の方を見る。
彼女は怖がるどころか俺の顔をまじまじと見ている。
あぁ、あの男の返り血がついているのか
騙すにも騙せないな…
彼女の中で俺が今さっき人を殺した、という事は明確なのだろう。
彼女は今度は何かを思い出すように意識が俺から離れた。
どうしてこの状況でそんな顔をするんだ。
「怖くないんですか?」
俺は彼女の表情に気になって問いかける。
彼女は少し驚いたように見えたが、すぐに目を細めて柔らかい表情になった。
「怖くない、のかしらね…。なんかもう疲れちゃったから。」
「人生に、ですか?」
「ええ、だって何にもないんだもの。私の周りには。みーんな消えちゃったから。」
彼女は目を瞑って微笑みながらそう言う。
みんな消えた、とは誰か身近に亡くなった人がいるのだろうか。
彼女はなんだかこの状況を怖がっていない、と言うよりは諦めて納得しているように見えた。
「だからここで死ぬなら、そういう運命だったってことね。」
彼女は俺の目を見てニコッと笑う。
ドクン
心臓が大きく音を立てたのを感じた。
彼女のその笑顔が俺の中にストンと落ちた。
その時の彼女の笑顔は死を目の前にした人間がするとは思えないほど、美しく綺麗な笑顔だった。
彼女はどうしてそんな笑顔をするんだ
どうしてこの状況が怖くないんだ
俺が怖いと思わないのか
彼女の事を知りたい
いや、
手に入れたい