第11章 出会い
安室はその日、組織から以前取引をしていた相手が情報を漏洩している可能性があるとしてその男を処理しろと任務が来ていた。
夜になって男を呼び出した廃ビルへと向かう。
自分は情報収集が専門だが時々殺しの任務も回ってくる。
これは国を守るため、そう思うが目の前の人間に引き金を引く感触は慣れるものではなかった。
何をやっているんだろうな…
本来は拳銃は人を守るためにあるのだ。
命を奪うためのものではない。
男が居るであろうフロアのドアを開けると彼はスーツ姿でイライラした様子で立っている。
「おいお前か、俺を呼び出したのは。全く呼び出しといて遅れるとは礼儀がなってねぇな」
「すいません、少し立て込んでいたもので」
「…ちっ、で、なんだ。さっさと要件を言え」
目の前の男は早くしろ、とでも言うように貧乏ゆすりをしながら俺の目を見た。
「分かりました。要件は…」
カチャ、と俺はそいつの方へ拳銃を向けた。
そいつは先程の高飛車な態度から打って変わって焦ったように後ずさりした。
「お、おいおい冗談だろ?さっさと仕舞えよそんな物騒なもん」
「あなたが要件を言え、と言うから僕は行動で表したんですけど…分かりませんでしたか?」
「はっ、ふざけんのも大概にしろよ」
「僕は至って真面目ですよ」
俺は安全装置を外して男へと近づく。
男はいよいよこれは茶番では無いと気づき、その場に尻もちを着いて座り込む。
「他に何か言うことはありますか?」
男は額に汗を浮かべながら腕を前に突き出す。
「やめてくれ…!俺にはまだ家族がいるんだ!今回ははめられたんだ、あいつらに!見逃してくれ…!」
男は必死に俺に訴えた。
あいつら…、と言うことはこいつに指示を出した上が絡んでいるという事か。
「あなたを見逃したら、僕が殺されちゃいますからね」
俺はふっと男に笑みを見せる。
俺はそのまま引き金を引いた。
目の前には頭部から流血した男がコンクリートの床に横たわっている。
こいつは大麻所持にも関わっていたため、どっちにしろ公安で拘束するつもりだったが組織の方に先に任務が来てしまった。
俺は静かにその場に手を合わせた。
組織に任務完了のメールを送る。
死体の処理は他の者にやらせる、ということで俺の任務はこれで終わりだ。
俺は扉のドアノブに手をかけた。