第7章 願望
「すごく、素敵な人だったの。私にはもったいないぐらい」
ほんとに素敵な人だった。
安室さんに負けないぐらいのハイスペック。
未だになんで私は彼と付き合えたのか、余程運が良かったのだろう。
「あんまり自分からは喋らないタイプだったけど一緒にいれるだけで嬉しかった」
「そー思えるのって1番いいですよね、羨ましい」
蘭ちゃんが言う。
ほんと、居てくれるだけで落ち着くって大切なことだと思う。
「でも彼の仕事が忙しかったから、いつも一緒にいれた訳じゃないんだけどね」
「その人はどんな仕事をしていたんですか?」
「詳しくは言えないんだけど、すごく素敵な仕事だったよ。そこも含めて彼を好きになった」
彼の仕事は余り公にはできない。内容は詳しくは知らないけれど時たま傷ついて帰ってくることだってあった。
でもその傷すら、誰かを守った証な気がして好きになった。
「どうして別れちゃったんですか?」
園子ちゃんが聞く。
まあそこは気になるよね。
私も未だにちゃんと納得は出来ていない
別れたばかりの時は自分の何がいけなかったのか
私が彼に何かを求めすぎていたのか
顔も分からない彼の愛した人と自分を比べた。
多分彼女は私よりもしっかりしていて、彼がそんなに好きになるぐらいだから愛想もいいし性格もいいんだろう。
もしかしたら彼女は彼に既に恋人がいることを知らなかったのかもしれない。
彼が彼女を傷つけたくないと思うなら、そういうことだって有り得る。
「あ、ごめんなさい。失礼でしたよね、プライベートのことこんなに聞いちゃって」
私がしばらく黙っていたためか園子ちゃんは申し訳なさそうな顔をして謝った。
「あ、違うのよ。少しその時のこと思い出しちゃって。あんまりいい別れ方じゃなかったから」
「そうだったんですか…」
園子ちゃんと蘭ちゃんは悲しそうな顔をした。
「もう、園子ちゃんたちがそんな顔する必要ないのよ!随分前の事だし、彼と会うことはもうないと思うから」
「でも、カホさん、さっきその人こと話してた時なんだか悲しそうな顔してたから…」
そうだったのか
自分では笑えていると思えてたんだけどな
完全に無意識。
"彼"のことになるとほんとに不器用だな、私。