第7章 願望
「いらっしゃいカホさん、待ってましたよ」
仕事帰りにポアロに行くと扉を開ける前に安室さんと目が合い、中から扉を開けてもらう。
「あー!カホさん、待ってましたよ!」
中に入るとカウンターには園子ちゃんと蘭ちゃんがいた。
「昨日はありがとう、今日は学校帰り?」
「そうなんです!そしたら安室さんが今日はカホさんが来てくれる、って」
「なんか新作のケーキを食べて欲しいとかで」
「いつのまにそんな話になってたんですか~?」
園子ちゃんはにやにやして尋ねてくる。
「そんな園子ちゃんが期待するようなことじゃないのよ笑」
そういうと園子ちゃんはえー、と残念そうな顔をする。
「あ!そういえば昨日のドレスのことなんだけど、あれ家に着たまま帰っちゃって…」
「あー!それならカホさんにプレゼントしますよ!元々そのつもりだったし」
「え、さすがに悪いよ、あんないいドレス…」
「いいんですよ!私があげたいんですから!貰ってください!」
園子ちゃんはもう受け取らないつもりらしい。
悪いとは思ったが情事の際に着た服を渡すというのも気が引けたのでそのまま貰うことにした。
「おまたせしました、蘭さんと園子さんもどうぞ」
園子ちゃんたちと話に盛り上がっていると、安室さんがケーキを運んできた。
「ありがとうございます。わあ…すごい、美味しそう」
目の前に置かれたケーキはミルフィーユ状になっていて表面はナッツなどでコーティングされている。
中はココア風味のシフォンケーキだ。
「どうぞ召し上がって下さい」
「いただきます」
フォークを入れるとバリッと表面が割れ、スポンジの部分は柔らかいため簡単にフォークが沈む。
そのまま口にいれるとナッツのザクザクとした食感とココア香るしっとりとしたスポンジが同時に口の中で楽しめる。
「なにこれ、美味しい!」
「ほんと、すごく美味しいです」
「そう言ってもらえて嬉しいです。カホさんはどうですか?」
「すごく…美味しいです」
「ふふ、それは良かった」
安室さんは満足気に笑った。
ほんとに美味しい。特にココア味のシフォンケーキは私にはどストライクだ。
そんな私たちの会話を見ていた園子ちゃんがぼそっと呟いた。
「やっぱ安室さんってカホさんにだけ態度違うのよね」