第7章 願望
もしかしたらその場の雰囲気で口に出てしまっただけなのかもしれない。
本音ではないのかもしれない、
そうとは分かっていても安室はその言葉が嬉しかった。
「安室」という名前に嫉妬してしまうぐらいに。
セックスの時の彼女の表情は普段の彼女からはとても想像がつかないほど官能的で美しい。
漏れる声も、火照った身体も、その全てが安室に興奮を与える。
ただ安室には気になることがあった。
彼女の口淫のテクニック。
組織での情報収集の為に仕方なく女とそういう行為をすることがある。
だから自身がそれをされたことはもちろんあるし、得意不得意も分かる。
彼女のそれは熟練されたものに近かった。
慣れている、と言うよりは相手が喜ぶポイントと手加減を理解しきっているという感じなのだ。
彼女は決して遊んでいるような人には見えない。
自分とこういう関係になってからもそういった男の影が見えたことは1度も無かった。
となると考えられるのは彼女の前の恋人。
分かりもしない相手に安室は嫉妬を覚えていた。
ただでさえ彼女の身体を知っている、まあそれは恋人なら当たり前のことなのだが、それさえも嫌悪感を感じるのに
彼女にそこまで教えこんだそいつが安室には許せなかった。
そんなことまで気にするなんて、気の小さい奴だな俺も
安室は自分の彼女への執着心に呆れた。
「ん…」
カーテンの隙間から入る光に眩しさを感じ目を開いた。
目の前には褐色の肌。
そういえば昨日…
私は昨夜の情事を思い出す。
下半身にも特有の痛みを感じる。
彼はまだ寝ているようだ。
相変わらず整いすぎている顔だ。
29にしてこの顔は反則すぎる。
私はマジマジと彼の顔を見ていた。
「ふふ、見すぎですよカホさん」
「え…」
突然彼の口が開きゆっくりと目が開かれる。
ブルーの瞳が私の目を見つめる。
起きてたの…!!
「おはようございます」
「おはよう…ございます」
私は恥ずかしくなって壁側へ身体を回転させた。