第5章 記憶
「これはあくまでカホさんのためを思ってすると思って下さい」
治療、のようなものですね、と沖矢さんは言う。
本当に頼ってしまっていいのだろうか。
いくらこんな状況とは言えど恋人でもない女にキスをすると言うのは普通の人なら嫌なことではないのか。
そこまで考えて安室さんの顔が浮かぶ。
彼とはどうなんだろう。
キスもしてるしそれ以上のことだってしている。
でも彼とは恋人ではない。恐らく…。
そしたら私が彼の助けを拒むのは逆に失礼なのだろうか。
ここで私がいいです、なんて言ったら今度こそ彼は私に幻滅するかもしれない。
甘えてしまってもいいのか
「本当に、沖矢さんは大丈夫なんですか」
「ええ、むしろカホさんを助けられるなら私はなんだってしますよ」
そこまで言われてしまうと、こんな時にも関わらず胸が高鳴ってしまいそうになる。
どうしてそこまで…
そうは思ったが口にはしなかった。
「あ、あの沖矢さん」
「はい」
「お、お願いしてもいいですか、」
「ええ、カホさんは僕に身を委ねてくれてかまいませんからね」
そう言うと沖矢さんは左手を私の後頭部に回した。
それだけでも身体が震えた。
「目、瞑って下さい」
そう言われて私はゆっくり目を閉じた。
唇に柔らかいものが触れるのを感じた。
「…んっ」
沖矢さんはお互いの唇の形を確かめるようにキスをする。
上唇を軽く唇で挟み、そのまま舌先でなぞった。
「はっ…ん」
唇を重ねるだけのキスが続いた。
「口開けて下さい」
しばらくして彼が言った。
私は薄ら目を開いた。
彼と目があった。
私はゆっくりと口を開いた。
なんとだらしない格好、
「いい子ですね」
そう言って沖矢さんは私に口付けた。
今度はさっきとは違う、柔らかくて熱い彼の舌が入ってきた。
私の舌に触れてはそれを器用に絡めとった。
「んっ…!はぁ…あ、」
「気持ちいいんですか?」
私は彼の言葉にコクコクと頷く。
時々私の舌を吸って彼の口内でそれを犯された。
チュ…、ジュルッ…チュパ
人に見られるかもしれない廊下で卑劣な水音が響いていた。