第5章 記憶
「先程身体を支えた時に体温が少し高いように感じましたし、今のあなたの姿からして薬でも盛られたのではないかと」
沖矢さんは違いますか?、と私の目を見て尋ねる。
「…そうです、」
私は俯いて答える。
私の今のだらしない顔を沖矢さんに向ける訳にはいかなかった。
どれくらいそうしていたのだろうか。
「カホさん」
突然沖矢さんが名前を呼んだかと思うと私の顎をクイッと持ち上げ顔を上に向かせた。
突然の事にどうしていいか分からず沖矢さんに今の自分の顔を見られていると思うと、逃げ出したいほどに恥ずかしくて死にそうだった。
「私がその身体の疼き、少しですが抑えてあげましょうか」
「…え、?」
「さすがにここで全て薬の効果を抑える事はできませんが、多少なら可能だと思いますよ」
「ど、どうやって…」
「私がカホさんにキスをするんです」
沖矢さんは平然とそう告げた。
聞き間違いだろうか、
沖矢さんは私にキスをすると言った。
「そ、そんなことできません…!
沖矢さんにも迷惑がかかりますし、私は大丈夫ですから…」
「そんな顔して蘭さんや園子さんにお会いするつもりなんですか」
「あ、…」
「今のあなたの顔は自分を犯してくれと言っているようなもんですよ。もし戻る間にあなたを見かけた男がいたならば恐らくあなたはそのまま彼のされるがままになるでしょうね」
私は彼の言葉を黙って聞いていた。
確かに今の自分は男の人の力に抵抗できるような身体ではない。
それに蘭ちゃんと園子ちゃんにこんな自分を見せるのは何としても避けたい。
でも…
「だからと言って沖矢さんにそこまでしてもらう訳には…」
「では、ここであなたは自慰をしてその身体を抑える、と言う事ですか」
「…っ、!」
私は沖矢さんを軽く睨んだ。
「だってあなたは現に先程そうしようとしていましたよね」
見られていた
途端に恥ずかしくなった。が、顎を掴まれているため今回は顔を下げることもできない。
彼の言っていることは正しい
反論の余地が無くなってしまった私はただ黙ったままだった。