第5章 記憶
「カホさん…」
沖矢さんはそう呟いて口付けを一層深くした。
私の舌を逃がさないというように追いかける。
どちらから出たかも分からない唾液がお互いの口内を行き来していた。
ここ最近知り合った彼。
出会った時も親切で今こうしてくれてるのも彼の優しさ。
でも彼から与えられるキスはすごく深くて激しいもので、
気づけば私は目を開いて彼の瞳を見つめていた。
それに気づいたのか彼は一旦キスを止めた。
そう思ったかと思えば彼は自分の足を私の間に入れて後頭部をグッと自分の方に寄せた。
私は完全に彼から逃げられなくなった。
彼は少し顔を傾け、そして…
私の上の歯の裏側を優しく舌先で撫でた。
「…!っあ、…んんっ」
私は驚いた。
なぜならそのキスの仕方は、歯の裏を撫でるのは…
"彼"のキスの仕方だったから。
私が1番弱くて、"彼"しか知らないキスの仕方。
「はっ…あっ、やだ、ぁ…」
彼は何も言わずに歯の裏を撫でる。優しく、端から端まで。
同じ、なのだ。
彼は"彼"ではないのに。
もしかしたら彼もそういうキスをする人なのかもしれない。
でも、このキスの仕方は
あまりにも彼に似すぎていて、
何より私の弱いところばかり責めてくるのだ。
舌を絡めた激しいキス、その間に入れてくるそれ。
呼吸が苦しくなった後に優しくつーっとなぞられる。
そのキスの差が私をさらに快楽へ導いた。
「あっ、ま、って…ん、だ…、め…」
「…」
「お、きやさん!…っ」
「…イきそうなんですか」
これは媚薬のせいなのか、それとも彼のキスのせいなのか…
キスだけで…
彼は私の歯の裏をねっとりとした舌でグルっと撫でた。
その瞬間一気に身体にビリッとした快感が襲った。
「はっ…!ああっ!」
沖矢さんが唇を離した。
どちらのかも分からない銀色の糸がつーっとお互いの舌を繋いだ。
「はぁ、はぁ…」
「大丈夫ですか」
私は頷いた。
さっきよりは楽になった気がした。
戻れますか?、と沖矢さんは聞いて私は、はい、と言った。
それまでの私達の様子を見ていた人物がいたとも知らずに。