第5章 記憶
隣から沖矢さんに声をかけられ、なるべく平然を装って返事をする。
「少し、興奮しすぎたみたいで…」
「顔も赤いようですし、熱でもあるのではないですか?」
そう言って沖矢さんが私の額に触れようとした時だった。
「警察だ…!!!」
突然後方からスーツ姿の男性がぞろぞろと歩いてくる。
よく見ると周りにもちらほら警察手帳を持った人がいた。
え、何があったの…??
「簾田智和!お前を覚せい剤取締法違反で逮捕する!」
そう言うと部下らしき人物を率いていた中心の男性がある男性に手錠をかける。
あの人…
手錠をかけられ、くそっ…、と呟いている人物
私はその人に見覚えがあった。
─あの、お嬢さん─
それは私にピンクのシャンパンを渡したあのウェイターだった。
どうしよう
私は咄嗟に焦った。
あの人に渡されたシャンパンの中に何か入っていたのではないか。
この身体の疼きはあのシャンパンを飲んでからであると今になって気づいた。
「お前は今日このパーティーの間にこの男に麻薬を受け渡したな…!
この男はすでに取り押さえられお前から麻薬を受け取ったとも認めている。
今から警察署に連行する、いいな」
手錠をかけた男性はその男に1枚の写真を見せながら話す。男の顔がみるみるうちに青白くなっていく。
「お前、他に何もしてないか」
男の周りにいた別の刑事がそう尋ねる。
「取引をした男は別の薬も渡されたと提出してきた。それは麻薬ではないがお前も所持しているはずだろう」
男は俯き拳をぎゅっと握ってからぽつりと呟いた。
「この会場の飲み物に媚薬を入れて、それを渡した女を後で犯そうと思っていた…」
媚薬…
私は足がふらつき身体が前に倒れる。
「カホさん!」
それを沖矢さんが私の肩を抱いて受け止める。
「あっ…」
普段よりも甲高い声が出た。
本来こんな所では出すはずのない場違いな声が。
沖矢さんは目を開いた。
私は顔に熱が集まるのを感じた。
途端に今の自分の状況を理解して恥ずかしくなって会場を飛び出した。