第29章 初めて※
深い絶頂に達したカホはそのまま降谷に抱きついた。
呼吸が整わず胸を上下に動かしたままのカホは疲れきった声で小さく呟く。
「ふるや…さん」
恥ずかしくて見せる顔がなくて降谷の肩に顔を預けたままカホは俯いた。
そんなカホの背中を降谷は優しく撫でた。
離したくないな、
カホの細い背中に触れながら降谷は心の中でそっと呟く。
降谷零としてカホを抱いている今がどれほど幸せか、言葉には出来ないぐらい自分の腕の中にいる彼女が愛おしい。
視線が絡むと顔を真っ赤にして照れる仕草も、我慢しようとしても出てしまう甲高い声も、必死に快感に耐えようとシーツを掴むその行動も、
何度も見てきたはず
けれど今はそれが自分だけのもので
カホが見てくれているのは降谷零で
「好きだよ」
心で呟いたつもりが降谷はその言葉を口に出していた。
耳元で呟かれたその告白はカホの疲れきった身体を熱くさせた。
「きっと俺はカホが思うような人間じゃない。
安室透なんて男はただの空想の人物にしか過ぎない。
俺は安室透のように紳士ではないし、寛大な心は持っていない」
カホの呼吸を整える音と、降谷の静かな呟きが降谷の部屋に合わさって響いた。
「もしかしたらこの先カホを傷つけたり不安がらせることが起こるかもしれない。
なるべくそうはさせたくないが、生憎自分の仕事は安全とは言えない。
いつ自分が消えてしまうかも、分からない」
カホは降谷のその言葉に自分の両親が亡くなってしまった時の事を思い出した。
突然自分の前から消えてしまって、1人残された時の気持ちを。
カホは降谷を抱きしめる力が強くなった。
「俺には守りたいものが二つある。
ひとつはこの国だ。
自分の身を危険に晒してでも、この国の安全と秩序の維持はどうしても譲れない。
犯罪組織に属すことも、自分の手を汚すことも、
いつか訪れるこの国の平和の為にもうしばらくは続けなければいけない。
それはこの先カホと一緒に過ごすとしてもだ」
降谷の言葉にカホは改めて降谷がこの国に対する責任感と正義で溢れた人物なのだと思った。
そんな人の気持ちを否定する気など微塵もなかった。