第28章 困惑
カホは降谷の告白が嬉しかった。
もう疑うことなんてする必要はないのだから。
自分の気持ちは分かっている。
いつからか心に秘めた降谷への想いは今も変わることはない。
けれど、カホは直ぐに降谷に返事をすることが出来なかった。
前までのカホなら何も気にせず良い返事をしていたに違いない。
でも今は違う。
カホは赤井との別れの真相を知ってしまった。
赤井が自分を守るために別れを決断したことも、その後彼がどれほど危険な場所にいたかも。
危険、という意味では降谷も同じ。
どちらかと言うと継続して未だ潜入中の降谷の方がリスクは高い。
カホは悩んだ。
降谷になんて伝えればいいのかも、上手く整理がつかなかった。
「カホさんは僕のこと嫌いですか」
カホは頭を横に振る。
「嫌いじゃない、むしろ…ずっと…」
貴方の事が好きだった
そう言いたくてもやはりカホの口からその言葉は出てこない。
「カホさんの好きは、僕と同じ好きですか」
降谷はカホの頬に片手を当ててそう尋ねた。
逸らすことの出来ない視線。
カホは静かに首を縦に動かした。
「でも…」
カホは自分の頬に添えられた降谷の手のひらを掴んでそっと離した。
「今の私は…まだ、降谷さんとは…付き合えない」
ごめんなさい、とカホは俯いて言った。
降谷はカホがすぐに返事をしなかった時点で何かしら思い悩むことがあるのだろうとは思っていた。
けれど、その理由にはどうしても1人の男の姿が浮かんでしまう。
「それは…赤井のことですか、」
カホはその言葉に時間を置いてから小さく頷いた。
「それは、気持ちが残っているとかそう言うことではありません。
ただ…彼には感謝しなければいけないことと、謝らなければいけないことがあるんです。
それは、ちゃんと直接会って言わなきゃいけない。
今、自分が何も出来ていない状態で降谷さんと付き合うのに…少し、抵抗があるんです」
赤井に許可を貰ったら降谷と付き合ってもいい、そういう訳ではないがカホは赤井と話す必要性はやはりあると思った。
彼の今を知って初めて次に進めると思ったのだ。