第28章 困惑
カホは安室から告げられた真実に驚きはした。
けれどそれと同時に心のどこかでホッとし嬉しく思った。
カホは今まで安室の言葉を信じきれなかったから。
優しくされるたびにこれは監視なのだと自分に言い聞かせてきた。
そっか…監視で置いてたわけではなかったんだ
その事実を知れただけでも十分だった。
過ぎ去った時間が無駄だとか、そんな事は考えるはずもなかった。
安室の存在が、カホにとってどれ程大きいか、それはカホ自身が1番分かっていたから。
「降谷…さん」
カホは切なそうに揺れる青い瞳を見つめてその名前を呼んだ。
青い瞳はその名前に見開いた。
その瞳の奥には、こんな状況でさえも込み上げてくる嬉しさが滲んでいた。
「私、降谷さんに初めて会った時、生きるのが辛くてもう人生なんてどうでもいいって思ってたんです。
自分の歩いてる場所が分からなくて、自分の存在価値が分からなくて。
そんな時に貴方に会って、
監視だって分かっていても
それでも降谷さんの言葉に私は救われた。
家に誰かが待っていてくれている、それだけでも嬉しかった。
降谷さんの優しさが、素直に受け入れられない時もあった。
監視だから、これは降谷さんの本心ではないんじゃないかって
でもさっきの言葉を聞いて、きっとそれは嘘ではなかったって思った。
さっき降谷さんは自分の手は汚れているって言ってたけれど、」
カホは降谷の右手を上から優しく握った。
「私にはとてもそうは思えません。
この手は、きっといくつもの命を救った、綺麗な、偉大な手です。
少なくとも私にはこの手がとても温かかった。
触れた時は安心した。
だからそんな汚れているなんて言わないで欲しい。
この手に救われた人は、きっと、私だけじゃないから」
ね?と言うようにカホは微笑んだ。
降谷はカホの言葉を聞いて何も言えなかった。
しばらくして降谷は少し俯くとカホに見えない位置で口元をぎゅっと噛み締めた。
そしてカホさん、と名前を呼んだ。
「さっきの言葉、ありがとうございました。
すごく、嬉しかったです。
それと、やっぱりちゃんと言いたい。
貴方が好きです。
初めて会った時から、今も、ずっと」