第28章 困惑
「降谷…零?」
知っているどころか聞いたこともないその名前。
カホは頭の中で降谷零という人物を探すも見つかる気配はない。
それに加えてカホは安室の一人称が僕から俺に変わったのにも疑問を抱いていた。
「少し待っていて下さい」
安室はカホにそう言うと自分の部屋へと向かった。
しばらくして安室は何かを片手に部屋を出てきた。
「最初は信じられないかもしれませんが」
そう言ってカホに見せたのは降谷零、と書かれた警察手帳。
そこに貼付された写真には目の前にいる安室の姿。
「安室…さん?」
カホはそこに写っている安室の顔と目の前の安室の顔を交互に見比べた。
理解が追いついてないカホを見て安室はゆっくりと口を開いた。
「僕の本名は安室透ではありません。安室透というのは偽名で、本当の名前は降谷零と言います」
「え?」
カホは降谷の言葉を必死に理解しようとするも頭の中では安室透と降谷零という名前が消えては浮かんでの繰り返しだった。
「カホさんが知っている僕の顔はポアロでのバイトと私立探偵と、組織の仕事…ですよね」
「…はい」
「これらは全て本職の延長線上にあるもので、本当の僕の仕事はこれです」
安室はそう言って自身の警察手帳を指差した。
「警察庁警備局警備企画課…世間で言う公安警察、僕はここに所属しています」
「公安、警察…」
カホは警察、という単語を聞いて安室の暗殺の現場を思い浮かべた。
素直に思ったのは、なぜ?という疑問。
「僕には倒さなければいけない相手がいます。それが今僕が所属している組織です。簡単に言うと僕はある犯罪組織に公安として潜入捜査をしている身です。初めてカホさんと会った時もその任務の一環の時です」
「じゃあ…安室さんも彼と同じで…」
「そうですね、僕と赤井は同時期に組織に潜入しました。その時はお互い同じ立場の人間だとは知りませんでしたが」
安室さんも…秀一さんと同じ
正義のために自分の身を危険に晒してまで…
カホは安室を犯罪者として認識していた頃の自分を責めた。
ジョディに赤井が別れを告げた真実を聞かされた時と同じ感覚が蘇った。
また…誰かを誤解したまま生きるところだった