第28章 困惑
─すごく、素敵な人だったの。私にはもったいないぐらい─
いつかのポアロで言っていたカホの言葉が蘇る。
あれは全て赤井の事だったんだな、と思うとまた黒い感情が溢れ出して
あんまりいい別れ方じゃなかった、と言うのは恐らく組織に潜入するためだったのだろうと同じ立場の自分なら簡単に予想がついた。
つまりそれはお互い、好きなままで別れたということ。
カホは…未だに赤井の事が好きなのだろうか
考えたくもないことだがその可能性は十分にある。
もし2人が再会したらその時は…
安室はもう制御できない嫉妬におかしくなりそうだった。
「カホさん…」
そう言って安室はカホの頬を撫でる。
今までセックスの時に感じた彼女のテクニックも全てはあの男が教えたもの。
それをカホは未だに覚えていて、今度は自分にそれを使用して
キスもセックスもカホの全ての初めての相手は赤井で…
「カホさん…」
安室の指先がカホの唇の形をなぞる。
この唇も赤井は知っている。
もしかしたら自分とは比にならないほどカホを知っているのかもしれない。
彼女の身体も、自分には見せない表情も
─秀一さん─
安室の頭にまたカホの声が蘇った。
「安室さ…」
安室という名前を今は聞きたくなくて安室は噛み付くようにカホの唇を塞いだ。
「んっ…!…んんっ」
カホが喋る余裕を与えないぐらい何度も自分の唇を重ねて
カホが酸素を求めて口を開けた所に安室は舌を口内に侵入させた。
「はっ…んっ」
カホの手首を押さえていた手はいつのまにかカホの髪を撫でていて
カホは自分のものなんだと言うように、何度も口付けて口内を犯して
奥に見つけた彼女の舌も、全て自分の物にしたくて
水音が響く程絡ませて
あいつのなんかじゃ…カホは…俺の…
「安室さん…」
自分を呼ぶ小さな声に安室はハッと意識を戻した。
自分の下にいる彼女の目元は今にも涙が溢れ出しそうで
自分の行動を後悔しても遅くて
ただ彼女の瞳を見つめることしか出来なくて
ふと目元に触れた柔らかい感触。
「泣いてる…」
彼女はそう呟いた。