第28章 困惑
「私には、死んで欲しくない人がいるんです」
カホは小さく息を吐いてから心に秘めた思いを安室に伝え始めた。
「安室さんは、犯罪組織の一員ですか」
「…犯罪組織。そう、ですね」
安室はカホの口から組織という言葉が出たのにも驚いたが、それと同時に自分はカホにとってそういった印象で見られていたということに胸が締め付けられた。
遡れば、カホとの出会いはまさに安室の任務中。
カホは以前安室と住んでいる時も組織の仕事の話はしなかった。
触れないようにしていた、とも言える。
安室はカホと住み始めてから自分が組織の一員なのだということをあまり考えなくなっていた。
カホがそのことに触れてこない、というのもあるが何より安室にとってカホは疲れを癒してくれるような、居てくれるだけで落ち着くような、そんな存在だったから。
安室はいつしかその感覚に慣れ、カホの目の前に居るのは安室透という1人の男なのだと思うようになっていた。
バーボンと言うのは降谷零の正義のために成り代わっているもう1人の自分。
けれど、カホは降谷零を知らない。
初めて会ったときのあの光景が強く頭に反映されていたとしたら、カホにとって安室透という男は犯罪者。
そう思われても、仕方ないか…
安室はカホの言葉に、忘れかけていた自分の中のバーボンの存在を強く認識し直されたのだ。
カホがそう思うのは考えれば当たり前のこと。
けれど彼女の、貴方は犯罪組織の一員なのだ、という言葉は安室にとって酷く心苦しかった。
「安室さんの所属している組織は、自分たちに不利だと思った相手の命を躊躇なく奪うような、そんな組織ですか」
「カホさん、どこでそんな…」
「例えば組織に警察組織の一員がスパイとして乗り込んでいてその人の身元がバレた時、彼らは間違いなくその人を殺すでしょう?」
「何を、言って」
安室はカホから次々と呟かれる黒の組織と似たそのやり方に嫌な予感がよぎる。
カホが、黒の組織のことを知っているのではないか、と。
今まで注意深くカホから遠ざけていた組織の存在。
なのにどうして組織のことを、カホが知っているのか。