第27章 見えない心
いや、でも、
巨大な組織じゃなくて、個人なら?
安室さんなら…私がどうにかして止めることは…
そう考えるもカホは目の前が真っ暗なままだった。
安室の隙のなさと鋭い観察力は近くにいるカホなら痛いほど分かりきっていることだ。
それに力でも頭脳でも安室に勝つことは不可能。
安室なら、と考えたカホだったがその相手を自分の思い通りに食い止められる可能性はほぼゼロに近い。
けれど自分が何もしない訳にはいかない。
自分がどうにか行動するとすれば、その相手は安室しかいないとカホは分かっていた。
秀一さんに手を出さないで欲しい、そう馬鹿正直に言って、はい分かりました、と頷く彼でもない。
彼の余裕を崩すような、そんな策略がなければ事は始まらない。
そもそも私が秀一さんを殺さないで、と頼む時点で私は殺されるかもしれない。
安室さんにとって自分は敵視している相手の味方となされるのだから。
それでも私は…
そう思ってカホはふと頭に1つの考えが浮かんだ。
それはあまりにも酷く最低で、彼を試すような、そんな方法。
今までそれを受け入れられなかったのは自分だけれど、彼から日々告げられるそれが本当なら、この方法は最善かもしれない。
私には何も無い。
安室さんに勝てるものは何も無い。
けれど、捨てられるものならある
今なら、秀一さんの為になら…
今までの償いにはならないかもしれないけれど、
秀一さんが私を守ってくれたように、私も貴方を守りたい
たとえ安室さんに嫌われても、もう二度と話せなくなっても…
恐らくこれが、私が秀一さんに出来る最大の恩返し。
もし成功したとしても、これはほんの少しの足止めにしかならないと思うけれど。
カホの頭の中で一通りの流れを作り終えたと同時にカホは瞳から大粒の涙を流した。
自分が今後しようとしている事が、どれだけ残酷なことなのだろうと。
「泣くのは…っ…今じゃないでしょ、」
カホはポツリとそう呟いた。
その言葉は自分に言い聞かせるように、自分を戒めるように、今後の自分の行いに対する覚悟でもあった。
すっかり空が明るくなった頃、カホは静かに目を瞑った。