第27章 見えない心
いつの間にか記憶の中で薄れていた、普段とは違うもうひとつの彼の顔。
最初自分が彼に会った時だってそうだった。
考えればそう難しいことじゃない。
彼の、安室さんの仕事は…
人を、殺めることじゃないか。
この前ジョディさんに会った時、彼女は私に言った。
秀一さんが潜入した組織は邪魔な相手だと分かればすぐに存在を消すような所だと。
秀一さんはFBI。
安室さんが…その組織の一員だとしたら?
秀一さんが潜入していると安室さんにバレたとしたら?
さっきの安室さんの会話は…
秀一さんを殺そうとしている、ということなのでは。
カホは頬に汗がツーっと伝っていくのを感じた。
あまりにも自分勝手な憶測でしか過ぎないが、考えていくうちにそれはどんどん真実に近いのではないかと思った。
全てが、1本に結び付く感じがしたから。
そうでなければ安室さんと秀一さんの接点が分からないし、いつまでも思い通りにさせる訳にはいかない、と言うのは正しくそういう事なんじゃないか。
カホは自分の手が震えているのが分かった。
その手をもう片方の手で強く包むもやはりそれはまだ震えたまま。
今まで彼が夜に出かけて行くのを見て何も思わなかった訳じゃない。
けれどそれに対して自分がどうこう出来る訳もなく、どちらかというと自分は彼に殺しを免れたのであって彼の本来の仕事については口を挟んでいい立場ではない。
行くな、とでも言っていたら、恐らく私は彼に今度こそ殺されていた。
そのうち安室さんが真夜中に家を出て行っても、夜中の3時ぐらいに帰ってきても、そっちの仕事に行くんだな、ぐらいにしか思わなくなった。
けれど今回はそうはいかなかった。
いつものように彼がその仕事をするのを黙って無視することは出来そうになかった。
その相手が、かつての自分の恋人であり、苦しんでまで自分を守ろうとしてくれた人だから。
正義のために、命をかけて仕事をしてる人だから。
殺されていい人なはずがない
カホは来た道へと足の向きを変えた。
今彼の顔を見れる自信が無かった。
ベッドの中でカホは何度も最悪の形を想像してしまった。
その度に安室への恐怖がカホを襲った。
どれだけ優しくても、彼はそっちの世界の人間
そんなの、分かっていたはずだったのに…