第27章 見えない心
カホは昨夜、安室におやすみなさいと告げた後、自室のベッドで横になった。
睡魔はすぐに襲ってきてカホは数分もしないうちに眠りについた。
それからしばらくしてカホは喉の乾きと共に目が覚めた。
夜中に目が覚めるのは珍しい、そう思いながらも水を飲もうと重い瞼を擦りながらベッドから立ち上がる。
部屋のドアノブに手をかけようとした所で扉の向こうから何やら話し声が聞こえた。
安室さん、?
この家に住んでいるのは自分と彼しかいないのだから、聞こえてくる声は彼以外有り得ない。
でも、何だか口調が…
カホは扉越しに聞こえる安室の話し方に違和感を覚えた。
いつもの丁寧な話し方ではなく、命令口調のような、仕事場にいる上司のような、どちらにせよカホが知っている安室とはどこか違う人のように思えた。
誰かと、電話してる?
話し方からして安室は電話中なのだとカホは思った。
人の電話を盗み聞きするのは失礼だとカホは1度ベッドへ戻ろうとした。
けれど彼女の足はベッドへと進むことはなかった。
いや、出来なかった。
安室の口から彼女にとって予想外の言葉が聞こえたからだ。
─いつまでも赤井の思い通りにさせる訳にはいかないからな。他のFBIの連中もまだ日本にいる事だろうしまだ変に手は出せない─
赤井、FBI…
…秀一さん?
カホは扉越しに聞こえた安室の言葉に思わず呼吸が止まった。
ゴクッと唾を飲んだカホの喉はさっきと比べても尋常ではないほど水分を欲している。
どうして、どうして安室さんが秀一さんの名前を?
それに日本にいるFBIって、ジョディさんたちのこと?
カホはあまりの衝撃に扉の前で呆然と立ち尽くした。
その間にも安室はまだ会話を続けていたが、もう安室の声はカホには届いてなかった。
まさか安室の口からその名前が出てくるとは思ってもいなかったから。
カホは頭の中が軽くパニックになっていた。疑問しか浮かばず、より複雑になっていく自分の考え。
そもそも安室さんの電話の相手は誰?
あんな話し方をするような相手は、一体…
そこまで考えて頭に浮かんだ最悪のシナリオにカホはまさか…と思わず口から零れそうになった。