第27章 見えない心
その日の夜、安室は夜中の12時を回ってもリビングで1人パソコンに向かっていた。
大量に溜まっている部下達からの書類。
明日は日中はポアロ、夜は組織の任務。
安室は今日中にこの書類を確認し終えなければ、と既に並外れた速度であったタイピングのピッチを上げた。
時計の針が2時を過ぎた所で安室はソファの背もたれに自分の背中を預けた。
朝方に警視庁に顔を出すとして、3時間は寝れるな
安室はパタンとパソコンを閉じて机に広げられた書類を整理する。
─ブーブーブー─
机の上で振動する普段あまり鳴らない方のスマホに表示されたのは安室の予想通りの男の名。
「どうした風見」
「すいません、夜遅くに」
電話越しに聞こえるのは安室が信頼を寄せる部下の1人である風見の声。
内容は先日の赤井の件についてであった。
「ああ、それならしばらくはまた様子見だ。いつまでも赤井の思い通りにさせる訳にはいかないからな。他のFBIの連中もまだ日本にいる事だろうしまだ変に手は出せない」
安室はまだ沖矢昴が白だと思っているわけではなかった。先日の対談も何か仕組まれたものなのではないかと。
「そういう事だ。よろしく頼む」
数分の電話の後、安室は机の上を元の状態に戻して自室へと向かった。
5時にセットしたアラームが鳴る前に目が覚め、安室はついさっき横になったばかりの体を起こす。
ゆっくりと睡眠を取りたいと思いながらもそんな時間は果たして次はいつ回ってくるのか。
部屋を出てカホの分の朝食と彼女のお弁当を作る。
安室はコーヒーだけを口にし、スーツを背負ってまだ薄暗い外の世界への扉を開いた。
玄関の扉がパタン、と閉まる音をカホはベッドの中で聞いた。
目元には酷いクマができていた。
額には薄く汗が滲んでいた。
カホは普段仕事のある日は7時過ぎに起きる。
元々朝が強いタイプではないためアラームの音が鳴ってもすぐに上体を起こす事はできない。
その前に重たい瞼を開けることが出来ないのだ。
けれど今日の朝は違った。
カホはアラームも鳴っていないベッドの中で目をしっかり開いていた。
ベッドの中で握られた彼女の手は、夜中の間ずっと震えたままだった。