第27章 見えない心
赤井の件が終わっても相変わらず安室は多忙な日々を送っていたが、以前よりは家に戻れる回数が増えた。
それは安室にとって喜ばしいことだったが、安室には1つ気がかりな事があった。
カホの様子が赤井の件の前後で違うような気がする。
以前はどちらかと言うと自分に対してどこか壁があって、本心を決して見せなくて
家の中でも他人の線を引かれているような、そんな感覚だった。
けれど今のカホは自分に対してよく微笑み、会話も前よりは軽やかになった。
普通はそれが良い事だと思うのだろうが、自分にはそれがどこか無理しているようにしか見えない。
考えすぎと言えばそれまでだ。
彼女の中で自分が長く家を空けていた間に接し方を変えようと思ったのかもしれない。
それは彼女なりの考えだし自分がどう口出しすることではない。
けれどやはり…。
その日も家への帰り道を愛車を走らせながら安室はカホの事を考えていた。
「ただいま」
「おかえりなさい安室さん」
安室が玄関の扉を開けてリビングへ入るとカホはソファーに座ってテレビを見ていた。
リビングの扉の音を合図にカホは安室の方へ振り向いて彼を出迎える。
「すいません、ご飯先に食べちゃいました。今安室さんの分温めますね」
「大丈夫ですよ。自分でやりますから」
「そうですか、それじゃあ私はそろそろ寝ますね」
「もしかして…起きて待っててくれたんですか。遅くなる時は先に寝てて下さいと言ったのに」
「このぐらいの時間ならいつも起きてますし、それに、やっぱり言ってあげたいじゃないですか、仕事で頑張った安室さんに」
安室はカホのそれが何の言葉を意味しているのか理解するには簡単だった。
それは素直に嬉しかった。
家で自分をそう思って待っててくれている人がいるということ、しかもそれが自分の愛する人となれば喜ばしい以外の気持ちはない。
「それは…嬉しいですけど…。本当に遅くなる時は待ってなくて大丈夫ですからね」
「分かってますよ。自分が起きれる時間の時だけですから」
カホはそう言うとソファーから立ち上がって自室の方へと向かう。
「おやすみなさい、安室さん」
「おやすみなさい、カホさん」
安室は部屋に消えていくカホの背中を見送った。