第27章 見えない心
カホはジョディと別れて家に帰ってきてから1人ソファーでジョディとの会話を思い出していた。
─なら…秀一さんが私と別れたのは…─
─そうね、カホの命を守るため。自分が悪者になってまで貴方を自分から遠ざけたかったのよ─
このジョディの言葉が頭に浮かんでは今の自分を殴りたくなるような、締め付けたくなるような、そんな自己嫌悪に襲われた。
何してるの私
彼の気持ちを知らないまま、何してたの
電気もつけないまま部屋の中で1人、響くのはカホのすすり泣く声と
ごめんなさい
という小さな呟き。
そう思いながらも自分が今好きなのは別の人
その人の家に住んで、その人の帰りを待っている
安室さんが悪いわけじゃない。彼は何も悪くない。
むしろ最近は、私の方が彼に迷惑をかけているのかもしれない…
私はここに居ていいのか
安室が帰ってくるまでカホは何度この言葉を思い浮かべたか。
外が暗くなっているのも気づかずにカホは何時間もソファーから動かなかった。
家に帰ってきた安室が自分の様子を気にかけて心配する様子を見てカホは思った。
また迷惑をかけてしまった、と。
そんな顔を、しないでほしい。
カホは無理矢理口角を上げた。
今の自分の気持ちとは真逆なほど、明るい笑顔を安室に向けた。
仕事で身についた笑顔の作り方に今ほど感謝したことはなかった。
ご飯を食べている時も、お風呂を出たあとも安室さんが何か言おうとしているのは分かった。
私はその度に別の話を持ち出した。
一瞬、彼が悲しそうな顔をするのを私は見て見ぬふりをした。
その顔が泣きそうになるほど苦しかった。
これを気に自分は安室さんへの気持ちを断ち切れるんじゃないか、
そう考えている自分がいて、私はどこまでも最低な女なんだと思った。
カホはその日の夜、ベッドの中で1人泣き続けた。
隣の部屋にいる安室に聞こえないように、必死に声を押し殺して泣いた。
やはりカホの頭にあったのは、ごめんなさい、の言葉。
それが赤井に対してか、安室に対してか、もしくは沖矢か
それはカホ自身にも分からなかった。
そのうち、もしかしたらそれは自分の存在なのかもしれないとカホは思った。