第27章 見えない心
カホは今朝家を出た時と同じ服装をしたままだった。
部屋の中にも関わらずロングコートを着ていた。
「あれ…何でコートなんか」
バカみたい、そう言って笑いながらカホはコートを脱ぎ始める。
「あ、安室さん何食べたいですか。安室さんの好きな物で良いですよ」
カホはソファーから立ち上がってキッチンへと向かう。
「カホさん夕飯まだ食べてないんですか?」
「え?だってまだ夕方じゃないですか」
平然とそう答えるカホに安室は怪訝な顔をする。
「カホさん、今はもう10時過ぎてますよ」
「え?」
カホは嘘だと言うような顔で壁にかけられた時計を見る。
時計の針は確かに10時を過ぎている。
「うそ…ごめんなさい、私てっきりまだ夕方だと思って」
カホは何をやっているんだと呆れ、乾いた笑いが口から漏れた。
その様子を見た安室はカホに近づき、両手をカホの肩においた。
体を屈ませ目線がちゃんと合うように顔をカホと同じぐらいの所まで下げる。
「僕がいない間にカホさん何かありましたか。疲れているように見えますし、僕が帰って来れなかったのもいけないんですが…」
「そんな…、全然大丈夫ですよ。今日はなんだか疲れちゃって、帰ってからボーッとしちゃってたみたいで」
「本当ですか、無理してたりしませんか」
「本当に大丈夫ですよ。それよりも早くご飯にしましょうか」
微笑みながらそう言って自分の横を通過するカホを見て安室は胸にモヤがかかったままだった。
普通こんな時間になるまで気が付かずにいるだろうか
カホなら尚更だ
上着を脱ぐのも忘れて、電気もつけずに
キッチンで遅めの夕飯の支度をするカホを見てやはり安室は心配だった。
自分のいない間に何かあったんじゃないか、と。
「安室さんはお仕事で疲れてるでしょうから、ご飯出来るまでゆっくりしてて下さいね」
そう言う彼女は普段と変わらないような、どこか違うような。
「手伝いますよ」
「駄目です。今日は私が料理しますから、安室さんはテレビでも見てて下さい」
少し強めの口調で言われ、安室は今日の所はひとまずカホに従うことにした。
それからのカホは普段と変わらなかった。