第1章 恋人
無事クライアントとの打ち合わせが終わり、一息ついて私はスマホの画面を開いた。
「無事終わりましたか?」
彼からのLINEが来ている。向こうも忙しいのだからわざわざ心配する必要はないのに。
「ええ、うまくいきました。ありがとうごさいます。」
そう打ち込んでポケットに戻した。
「ただいま戻りました。」
「あ、お疲れー!どうだった?河野製薬との打ち合わせは、」
「本社の薬を使ってくれると仰ってました。来月から是非よろしく、と」
「いやあ、ほんと良かった。やっぱり七瀬さんに任せて失敗はないな!今後も頼むよ!」
「ありがとうごさいます。頑張ります」
本社に戻って早々部長に声をかけられた。22の時に入社して以降、真面目にやってきた仕事。仕事中は色んなことを忘れて夢中になって取り組める。特に苦もなくやり続けてた結果、本社への移動が決まり、出世の声がかかり、今は副部長にまでなる事ができた。正直出世の願望は無かったのだが、今の部長には色々とお世話になり大変背中を押してくれたため、せめてもの恩返しという事で今に至る。
デスクに戻って鞄からお弁当を取り出す。中身は私の好きなものばかりだ。それに加えて栄養バランスまで考えられている。目が覚めると大抵彼は家にいないが仕事に行く日は毎日机にお弁当が乗っている。
お弁当ぐらい自分で作れる。彼ほど上手くはできないだろうけど。
完食し終えてLINEを開く。
「良かったです。今日はカホさんの好きなグラタンにしますね。」
嬉しい、素直にそう思った。彼はなぜこんなにも私に優しくするのだろうか。
好きでもない相手に。
好意を抱かせ自分に有利なようにさせたいのか。それが彼の罠なら私はそれにすでにかかっているのだろう。