第26章 それぞれの気持ち
いつから?
いつから彼のことをそういう対象で見てたの、
昨日自分を助けてくれた時からだろうか、
いや違う
彼を気にするようになったのはもっと前から
彼が、この店の扉を開いて胸が高鳴ったのは
きっと、きっと、
まだ彼がこの店に来始めの頃
カホは信じられなかった。
今まで恋愛というものが分からなかったと言うのに目の前にいる彼の事を自分は数回会っただけで意識していたのか、と。
「どうした、さっきから気難しそうな顔して」
「えっ、いや、そんな、大したことじゃ」
「何か悩みでもあるのか」
「無いです無いです!それは、ほんとにもう…」
貴方の事です、とは言えるはずも無くカホは無駄に赤井の質問に焦った。
赤井はなぜこんなにも彼女は誇張して否定するのか分からなかったが、それよりも今の自分の状況に驚いていた。
自分は、こんなにも誰かに話しかけたりするタイプだっただろうか
普段は人と関わる事など面倒でしないはずなのに
彼女とは、なぜこんなにも話したいと思うのだろう
なぜ、か
赤井は頭に1つの考えが浮かんだ。
それはいつもの自分、いや、今までの自分なら絶対に浮かぶことの無い言葉
でもそれは単純で、けれどはっきりとした理由で
それが正しいのか分からない
なんせ自分はこの気持ちを今まで知らないのだから
気づいたのはついさっき。
あの光景を見た時、自分は確かに思ったのだから
触れるな、と。
ただの従業員が働いている光景なのに、こんなこと思うなんてどうかしている。
最初は訳が分からなかった。
けれどこの気持ちに名前を付けるとしたら、それは、
嫉妬、ではないのかと。
赤井はそんな経験はない。
誰かに嫉妬心を抱くなど、自分には起こりえないと思っていた。
けれどそれがどうだ。
新人の彼が彼女と距離が近かっただけで、自分はこんなにも苛立って
彼女に触れるのは、自分だけがいいと
そこまで思ってはもう引き返せなかった。
1番の決めては彼女に自分の瞳の色について言われた時だ。
恥ずかしがりながらも自分の瞳を褒めてくれた彼女を見て素直に心にその気持ちが浮かんだ。
彼女に触れるのも、色んな表情を見るのも、彼女を支えるのも
それは今後自分がいいと。
この気持ちを世間では何と言うか、その答えは悩むものでもなかった。