第26章 それぞれの気持ち
今この瞬間、2人は既にお互いを想い合っていた。
いや、気持ちに気づいた、と言った方が正しいだろう。
2人は今よりもっと前から互いを気にしていたのだから。
もしかしたら2人は初めて会った時から何か惹かれ合うものがあったのかもしれない。
人に恋をすると言う気持ちを知らない者同士がこんな短時間で今まで味わったことの無い気持ちを抱く。
運命、
そんな言葉は論理的では無いが今の2人に似合っているのはこの言葉なのだろう。
恋心を自覚すると人はもうその人への気持ちが溢れるばかりだ。
強く惹かれ合っている2人が互いの気持ちを理解するのにそう時間はかからなかった。
カホは自分の初めてを赤井に捧げた。
異性と手を繋ぐのも
抱き合うのも
キスをするのも
身体を重ねるのも
赤井はカホが高校を卒業するまで彼女を抱くことはしなかった。
赤井が初めてカホを抱いたのは自分がFBIになって既にカホが日本に戻って大学生として生活していた時だ。
カホが初めて赤井に抱かれた日、カホは痛みの中で幸せだと感じた。
好きな人と繋がることが、こんなにも嬉しいことなのだと。
それは赤井も同じだった。
好きな女を抱くというのは、快感よりも愛しさが勝るのだと。
赤井はカホの目の端に伝う涙を拭ってキスを落とした。
17の冬に日本に戻ったカホは赤井の3年間の職務経験中は1度も彼に会うことはなかった。
3年ぶりに再会した赤井に言われた言葉にカホは空港で涙を流した。
─一緒に暮らさないか─
日本勤務が多く充てがわれた赤井はカホにそう提案した。
もちろんカホの答えは決まっていた。
それからの日々は幸せなものだった。
このまま時間が経てば自然と結婚も視野に入れるようになるのかと
2人はそう思っていた。
赤井に潜入捜査の命令が出されるまでは
幸せな生活は一気に崩れ去った。
もちろん赤井はこの最悪なシナリオを予想していなかった訳では無い。
けれどいざ彼女を手放すとなるとそれは赤井にとって今までの人生で1番苦しい選択だった。
赤井の仕事上、時に大切な人は自分の弱みにもなる。
それでも赤井にとって彼女は
世界でたった1人
自分が死んでまで守りたい女なのだ