第26章 それぞれの気持ち
下を向いている訳にもいかず視線を上げれば自然と視界に入る赤井の姿。
カップ片手にコーヒーを飲む姿はなんだかとても様になっている。
カホはただコーヒーを飲んでいるだけなのに、と思いながらも赤井の周囲に漂う雰囲気とコーヒーが似合いすぎる絵面に思わず見とれてしまった。
今までテレビで見た俳優や学校の先輩などを見てかっこいいと思ったことはある。
けれどそれとは違う。
目の前の彼はかっこいい。それはもちろんなのだが、先輩を見て思った時とは全然違う。
先輩を見て、こんなにドキドキしたことはない。
いつの間にかカホは視線を赤井から逸らせなくなっていた。
その時、ふと目線を上げた赤井とカホの視線がバッチリぶつかった。
カホは反射的に目線を逸らしてしまった。
ずっと見ちゃってたの、気づかれたかな…
それに今のは感じ悪かったかもしれない、
カホはゆっくりと視線を赤井の方に戻した。
赤井はカホの方を見たままだった。
2人の視線は無言のまま重なる。
カホの胸はうるさく鳴り響いていた。
赤井の瞳の色が綺麗で、カホはそのグリーンに見とれて
「綺麗…」
思わず口から零れたその言葉。
言った後でカホは心の中で唱えていたはずのそれが口に出てしまっていたことに気づいて
赤井を見ながら言ったその言葉は、誰のことを指しているのかバレてしまうだろうと焦って
「あ…その、」
赤井の視線が恥ずかしくて、カホは1人勝手にあたふたとし始める。
赤井はその様子を見て、ふっ、と笑った。
「何がだ?」
赤井はカホの発言に興味があるかのようにそう尋ねた。
カホはまさか赤井からそんなことを尋ねられるとは思ってもおらず、恥ずかしさと緊張でいつもの冷静な姿はどこかへ消え去っていた。
「そ、その」
正直に言っていいのか、気持ち悪いと思われはしないか
カホは赤井の問いに素直に答えることが出来ない。
ぎゅっと厨房の下で手を握って真一文字に結ばれた口元を開く
「瞳の色が…綺麗だな、と思って…」
赤井の目を見て言おうとしたが、やはり恥ずかしくて最後の方はカホの視線はテーブルに置かれたコーヒーに注がれた。
引かれたかもしれない…