第26章 それぞれの気持ち
赤井の視線はカホの隣にいるリアムに移った。
新人なのだろうか、赤井がここを訪れてから初めて見る顔だ。
「皿洗いはとりあえずここまででいいかな。そしたら棚にカップを戻すから、その前にそれぞれの場所を教えなきゃね」
カップはここで、お皿は…と次々と食器をしまう場所を伝えていくカホ。
「このお皿はあんまり使わないから…」
カホは背伸びをして頭上の棚の扉を開けようとする。
よく使われるカップや皿は比較的低めの位置に置かれているがあまり注文の入らない商品の食器は高めの棚に収納されている。
取手の所に触れそう、となった時に後ろから伸びてきた手が扉を開いた。
「あ…ありがとう」
カホが少し首を後ろに傾けると見下ろされる形となってリアムと視線があった。
「それ貸して」
リアムは手をカホが持っている皿へと向ける。
自分よりリアムの方が安全に収納できると思ったカホは彼に皿を渡す。
「ありがとね、あ、それその左」
カホは下からリアムに指示を出す。
その様子を赤井は席から見ていた。
赤井の方からはほとんどリアムの背中しか見えない。
とはいっても先程まで見えていたカホの後ろに彼が並んだことで見えなくなったのだが。
ただ従業員が働いている風景。
別に変わったことじゃない。
リアムは時々視線を下に向けては止まっていた手を動かす。
そうだ、何も気にすることじゃない
赤井はそう自分に言い聞かせてもその光景から目を逸らすことが出来なかった。
そして自分の胸の中に生まれるモヤついた感情。
赤井はその意味が分からず、気を紛らわそうとカップに残ったコーヒーを飲んだ。
しばらくして客足が途絶えつつあり、店内の様子は先程から変わらない。
カフェは長居するお客さんが多いため、新しく店にお客さんが入ってこないと従業員は比較的暇になる。
そんな時カホは残っている皿洗いをするか、カウンターにいる常連のお客さんと話すかのどちらかだ。
しかし今日はリアムのお陰もあって皿洗いは全て終わってしまっている。
そして今カホの目の前にいるのは赤井。
カホは自問自答を繰り返していた。
話しかけるべきか、それともそっとしておくべきか
でもただ突っ立ってるっていうのも…