第26章 それぞれの気持ち
カホとリアムは2人で厨房に入る。
「今日は多分皿洗いが多いかもしれないけど、お店の雰囲気とか私達の仕事とかを観察してもらえればいいかな。何か困ったことあったらなんでも言ってね!」
「わかった」
リアムはカホの言葉に素っ気なく返事をしたがカホはそんなことを気にするタイプではない。
カホにとってこのカフェでのバイトはもはや日々の生活リズムに組み込まれていると言ってもいい。
他のどこにも変え難いほど、このカフェはカホにとって大切な場所。
ここに来てくれるお客さんはもちろん、働きに来てくれる人もカホにとっては大切な1人。
リアムがバイトに入ったという時点でカホが彼と仲良くやっていきたいと思うのは必然的。
だからリアムの口数が少なくても、返事が素っ気なくてもカホは全然問題ない。
むしろ働く仲間が増えて嬉しいとさえ思っている。
カホがお客さんの注文を聞きに行って、それを提供する。
そのお客さんが帰るとリアムが残った食器を洗う。
ひたすらその繰り返し。
たまにカホがリアムの様子を確認して問題が無いかをチェックする。
「凄いねリアム君。皿洗い綺麗だし、速いし、なんて言うか作業に無駄がない…」
カホは注文がひと段落したところでリアムの手元を覗いた。
リアムの皿洗いの丁寧さと速さにカホは思わず感嘆の声を漏らす。
「皿洗いは…普段から自分がやってる」
リアムはボソッと小さな声で言う。
「なるほど、道理でこんなにテキパキと出来るわけだ」
ちゃんとリアムの声が届いたカホは彼の手元を見たまま呟き、私も見習おう、と残っている皿洗いを手伝う。
リアムはチラッとカホの方を見た。
自分の仕事なのにやらせてしまっていいのか、という疑問。
けれど当の本人は特に気にすることもなく慣れた様子で皿を洗っていくのでリアムも止めていた手を動かし始めた。
チリンチリン
「いらっしゃいま…せ」
ベルの音が聞こえカホは手を止めて扉の方へ視線を向ける。
そこにいた人物に思わず挨拶が途切れる。
リアムはカホの様子に違和感を感じ彼女を横目で確認してから同じく扉の方を見た。