第26章 それぞれの気持ち
「今日からここで働いてくれることになったリアム君だ。カホちゃんと同じ学校だろ?もしかしたら知り合いかと思ってね」
オーナーの横に立っていたのはカホと同じクラスメイトであるリアムだった。
とは言ってもリアムは普段は物静かでカホは彼があまり誰かと喋っているのを見たことがなかった。
けれど彼が女子達から人気があるのは知っていた。
艶のある黒髪が印象的で少し前髪は長めだが、その裏に隠れた瞳はなんとも吸い込まれるように美しいのだとか。
体育の時間に髪をかき上げたリアムを見て周りの女子が黄色い悲鳴を上げたのはカホのクラスでは有名な話だった。
いつもリアムは大抵1人で1番後ろの端の席から窓の外を見つめている。
一匹狼ように周りに群れを作らないリアムはミステリアスだと言われるようになり、元々の整った顔立ちも交えて校内では学年関係なく人気があった。
そんな彼がこのカフェにバイトに来た。
クラスメイトだとは言えカホはリアムと話したことがなかった。
「いや~、こんなかっこいい子が入ってくれるなんてね。今度は女性の常連さんが増えちゃうかもね」
オーナーは嬉しそうに呟く。
リアムの表情は先程から変わらずどこか一点を見つめたまま。
「という事で、指導係をカホちゃんに頼みたいんだけど…いいかな?」
「私…ですか?」
「うん、カホちゃんもまだ入ってそんなに経ってないけどもう僕が教えること無いぐらい十分に仕事は覚えてるからね。学校とかも含めて忙しそうだったら大丈夫だけど、指導係なんて滅多に出来るものじゃないから良い経験になるんじゃないかなと思ってね」
「そういうことなら、やってみたいです!」
カホはオーナーの頼みを喜んで受け入れた。
上手く教えられるかは分からない。自分の仕事と両立出来るかも正直心配だったが新たな成長になるんじゃないかと思えばカホは是非とも挑戦してみたかった。
オーナーはカホの返事に大変喜んでお礼を言ってからその場を後にした。
カホはリアムの傍に寄る。
「同じクラスだけど、これが初めて話すのかな。
上手く教えられるか分からないけど、一緒に頑張ろうね!」
「ああ、よろしく」
リアムはカホの目を見てそう答えた。