第26章 それぞれの気持ち
エマはカホに恋愛と言うものをして欲しかった。
カホの自由だとは分かっているが、エマ自身、今の彼氏に救われたことは何度もある。
友達とは違う、恋人という存在が自分の支えになることだってある。
カホは最近になってそういう人と出会いたいと言うようになった。
最初の頃は興味がなかったと言うのに。
だからこそ、カホが恋愛に対して嫌な思いを抱いて欲しくないのだ。
ごたごたに巻き込まれたり、嫌がらせをされて恋愛とはそういうものだと思って欲しくなかった。
嫌がらせが無くなった今は恐らくここ最近では1番カホにとって平穏な日々を過ごせている。
そんな時にカホの口から聞かされた男の気配。
カホから男の話が出るなんて初めてだった。
エマは自分の事のようにそれが嬉しかった。
「今日ずっとその人のこと考えてボーッとしてたの?」
「う、うん」
「それは助けられたから?」
「どうなんだろ…。でも助けられてから…すごく、頭に浮かぶの。その人の事」
「へぇ~」
エマはニヤニヤと口元を上げながらカホの話を聞く。
「ちょっと、何でそんなにニヤニヤしてるの」
「いやー、ついにカホがって思ったら」
「ついにって、何が?」
「それは自分で気づかないとね」
「えぇ」
その後もエマはずっと嬉しそうに笑っていてカホはエマの表情に眉を顰めていた。
「今日もバイトでしょ?カホ」
「うん」
「その人来るの?」
「分かんない…。その人、多分大学生だと思うの」
「大学生…。へぇ、大学生ねぇ」
「ねぇなんでまたその顔してるの」
その日は2人が出会ってから今までで1番恋愛の話をした昼休みだった。
カホは学校を終え、一直線にカフェへと向かう。
エマとの話もあって、余計彼を意識してしまう。
いつも通り…いつも通り
そう心で呟いてからカホはカフェへと入った。
従業員用のエプロンを着てカホは厨房へ出ようとした。
「あー!カホちゃんちょっと待って!」
ふと後ろからオーナーの声が聞こえ、カホはその声の方向へと振り向く。
オーナーの隣を見てカホは、あ、と思わず声を漏らした。