第26章 それぞれの気持ち
少し照れながらそういうエマをカホは素直に羨ましいと思った。
そういう人と出会えたことを。
「カホは可愛いのに、恋愛に興味が無いなんて勿体ないわね」
確かにカホは恋愛に関心がなかった。
けれどさっきのエマの表情を見ては、自分もそう思える人に出会いたいと思った。
それからもカホは何人もの人に告白をされた。
カホはそれを全て断った。
その中には仲のいいクラスメイトもいたが、自分はやはりその人をエマと同じような感情を抱いて見ることは出来なかった。
ある時、他クラスの女子がカホの元にやってきて叫んだ。
「人の彼氏に手出してんじゃないわよ!」
そう言ってカホの頬を思いっきり叩いた。
教室にパンッと言う乾いた音が響いた。
カホは何が起きたのか分からず、しばらくして頬にジンジンとした痛みが走った。
「あんた自分が何したか分かってんの?」
隣に座っていたエマがガタッと椅子から立ち上がって怒りに震えた女の前に立つ。
高身長のエマは女を上から見下ろす形となる。
女は思わず後ずさった。
「彼氏と話し合いもろくにしてないんでしょ。ちょっとした噂で頭に血が上ってここに来たんだろうけど、それでカホを叩くっていうのは自分勝手過ぎんじゃないの?」
「ジェームズがその女が好きだから別れてくれって言ってきたのよ!あんたがジェームズを誘惑したんでしょ!人の彼氏に手出すぐらい男好きなのね!」
「おいあんたいい加減にしろよ」
エマは目に怒りの色を浮かべて女を見る。
「待って」
カホは席から立ち上がって女の前に立った。
「私はジェームズさんに手を出したりしていません。ですが、告白をされたのは事実です。それまでジェームズさんとは関わりは一切ありません。もしそれを疑っているのなら本人に直接確かめてください。それでも納得いかなかったらその時は3人でお話しましょう」
カホは女の目を見てそう言った。
女はばつが悪そうにカホを睨んだ。
そして舌打ちを残して教室を出て行った。
その様子を見てカホは机に突っ伏した。
「怖かった…」
「いや、よく言ったよ。ほら、これで頬冷やして」
そう言ってエマは開けようとしていたアイスをカホに渡した。