第26章 それぞれの気持ち
「私エマっていうの!カホって呼んでもいい?」
「うん!もちろん!」
カホはエマの手を握り返した。
エマはカホの隣に立っていた。
エマの体が壁となってカホから扉の向こうの様子は見えなくなっていた。
後にエマはカホに言った。
元々中学の時から自分はカホと話してみたかった。自分は元々日本に興味があって、日本についてたくさん知りたいことがあるのだと。だからクラスメイトにカホがいると知った時はとても嬉しかった。けれど話しかけるタイミングが見つからず、ふとカホを見た時に何とも苦しそうな顔をしていた。それが最初はどうしてか分からなかったが、カホがチラッと扉の方を向いた時にその意味が分かった。だから自分がカホの横に立ってちゃんと自分の方を向けるようにしてカホに話しかけたのだと。
それを聞いた時、カホはエマに泣きそうになりながら抱きついた。
入学式以来、2人は行動を共にした。
エマの社交的な性格に対し、カホは内気とまではいかないが積極的に話しかけるのは得意ではない。
けれどエマの性格のおかげなのか、カホが自分からエマに話すようになるのは時間がかからなかった。
高校に入って1ヶ月ほどたった頃、カホは先輩に呼び出されて人生で初めての告白をされた。
カホはそれまで恋愛というものに関心がなかった。
先輩のことを全く知らなかったわけじゃない。
嫌いと思っていた訳では無いがカホはその告白を断った。
理由は簡単だ。
恋愛が何か分からなかったから。
人を好きになるという事がカホには分からなかった。
異性に特別な感情を抱いたことなど1度もなかった。
その話をカホはエマにした。
エマは信じられない、というような顔をした。
エマには中学の頃から付き合っている恋人がいるらしい。
2人は喧嘩もするけど普段はラブラブらしい。
カホはエマに尋ねた。
「人を好きになるってどういうこと?」
「うーん、そんなの深く考えたことないんだけど。なんだろう、私の場合は気づいたらもう好きだった。その人の事しか考えられないぐらい、少し話せるだけでも嬉しかった」